第8話 体育館裏にて

 その後、大和はゆっくりとトイレを済ませると、教室には戻らずに下駄箱に向かって行って。


 そのまま靴に履き替えると外に出て体育館の方へと向かった。


 そして、大和がゆっくりと体育館の裏に向かうと。


「……ふう」


 そこには優衣が1人で立っていて、大和に背を向けて一息付いていたので。


「優衣」


 大和がそう声を掛けると。


「きゃっ!?」


 優衣が悲鳴を上げてゆっくりと後ろを振り返ったので。


「やっぱりここに居たか」


 大和がそう言うと。


「えっ、あっ、えっと、橘くん」


 優衣は遠慮がちにそう言ったが。


「今は他に誰も居ないからいつも通りでいいぞ」


 大和がそう言うと。


「……それもそうですね、もう大和くん、急に話しかけないで下さい、びっくりしたじゃないですか」


 少し頬を膨らませながら、優衣が不機嫌そうな口調でそう言ったので。


「悪かったって、それで優衣の用事はもう終わったのか?」


 大和がそう質問をすると。


「……ええ、終わりました、また男に人に告白されてしまったので、今回も丁寧にお断りをしました」


 少しだけ表情を暗くしながら優衣がそう言ったので。


「そうか……まあ、お前は俺と違ってモテるから昔からこういった苦労が絶えないな」


 大和がそう言うと。


「もう、そんな風に自分の事を卑下しないで下さい、私は大和くんの事を昔からずっとカッコいいと思っていますし、それに私は大勢の人に愛されるより、私にとって大切な人に愛してもらえたら私はそれだけで十分ですから」


 優衣はそんな事を言ったので。


「……そうか」


 大和がそう言うと。


「ええ、そうです……あの、大和くん」


「何だ?」


 大和がそう聞くと。


「その、ここには私たち以外誰も居ないので、大和くんに少しだけ甘えてもいいですか?」


 少しだけ頬を赤く染めながら優衣がそんな事を聞いて来たので、大和は少し周りを見渡してから。


「仕方ないな、少しの間だけだぞ」


 大和がそう言うと。


「ふふ、ありがとうございます、大和くん」


 優衣はそう言って、大和の傍へと歩いて来て、そのまま頭を差し出して来てから。


「大和くん、お願いします」


 優衣はそう言ったので。


「……仕方ないな」


 大和はそう言って、優衣の頭を右手で優しく撫で始めると。


「ふふ、気持ちいいです」


 目を細めて満足そうな表情を浮かべて優衣はそう言ったので。


「そうか、それは良かったな」


 大和はそう言って、暫くの間、優衣の頭を撫で続けていたのだが。


「……なあ、優衣」


「何ですか、大和くん」


「今週の平日を乗り切ったら、休みは久しぶりに2人で何処かに遊びに行かないか?」


 優衣の頭を撫でながら大和がそう言うと。


「えっと、私は良いのですが、今週の休みは大和くんの家でアニメを観る予定もあるのですが、それはどうなるのですか?」


 優衣がそんな事を聞いて来たので。


「そういえばそうだったな、それなら土曜日は俺の家でアニメを観て日曜日に何処かに遊びに行くっていうのはどうだ? あっ、勿論、お前に何か予定があるのなら無理にとは言わないが」


 大和がそう提案すると。


「えっ、本当ですか? 勿論大丈夫ですよ、大和くんと休日ずっと一緒に居られるなんて私は凄く嬉しいです!!」


 優衣は満面の笑みを浮かべてそんな事を言ったので。


「おお、そうか……それなら土曜日の夜は久しぶりに俺に家に泊まったりするか?」


 冗談半分に大和はそう言うと。


「えっ、あっ、えっと……そうですね、大和くんにそう言って貰えるのなら、頑張ってお父さんから許可を貰っておきます」


 少し顔を赤くしながら優衣がそう言ったので。


「えっと、あんまり無理はしなくていいからな?」


 大和はそう言ったのだが。


「いえ、折角のチャンスなので頑張ります!!」


 何を思ったのか、優衣にしては珍しく気合の入った口調でそう言った。


 その後も大和は優衣が満足するまで彼女の頭を撫で続けて。


 優衣が満足してから、2人は各々の帰路に付いた。

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