第1章 学校での一幕とお泊りデート

第7話 クラスでの2人 

 天ヶ瀬優衣と一緒にアニメを観たり、お互いの手料理を食べたりと、それなりに充実した休日を過ごしてから数日が経過した水曜日の朝。


 橘大和は自分が通っている高校の2年A組の教室に来て、今の自分の席である一番後ろの窓際の席に座ると。


「やあ、おはよう、橘くん」


 1つ前の席に座っている爽やかイケメン風の男子生徒が後ろを振り返り、大和に向かってそう挨拶をして来たので。


「ああ、おはよう、松下くん」


 大和がそんな風に言葉を返すと。


「ははっ、相変わらずテンションが低いね」


 彼は苦笑いを浮かべてそう言ったので。


「まあな」


 大和はぶっきら棒にそう答えた。


 彼の名前は松下湊まつしたみなと、基本的に人間関係を構築するのが苦手な大和にとって、今は唯一と言っていいそれなりに話の出来る存在であり。


 そんな湊は男である大和から観ても結構なイケメンであり、色々な女子生徒から何度も告白されているというのを大和は噂で知っていたのだが。


 どういう訳か、松下湊は全ての告白を断っていたのだった。


 ただ、大和は湊と知り合ってからまだ数ヶ月で、そんなプライベートな会話が出来る程仲良くなれているとも思っていなかったので。


 その事が少しだけ気になりつつも口には出さないでいた。


 そして、大和は湊から視線を逸らして斜め前の方の席を観ると。


 そこには大和の幼馴染の天ヶ瀬優衣が席に座っていて、優衣は隣の席に座っている女子生徒と話をしていて、大和はそんな幼馴染の姿をボーっと眺めていると。


「えっと、橘くん」


 松下湊がそう話しかけて来たので。


「どうかしたのか?」


 大和がそう聞き返すと。


「……橘くんはもしかして、天ヶ瀬さんの事が好きなのかい?」


 湊は大和以外の生徒には聞こえない様に小声でそんな事を聞いて来たので、急に図星を付かれた大和は一瞬言葉を詰まらせつつも。


「……どうしてそう思うんだ?」


 大和も小声でそう聞き返すと。


「最近になって気が付いたのだけど、橘くんは結構な時間、天ヶ瀬さんの事を観ているんだよ、だから橘くんは天ヶ瀬さんの事が気になっているんじゃないかって思ったんだけど、僕の推察は間違っているかい?」


 大和にしか聞こえない様に小声で、しかしはっきりとそう言われて、実際に優衣の事が好きな大和は何と答えるべきか数秒間悩んだ後。


「……そういう訳じゃないよ、ただ、天ヶ瀬さんとは小学校から今日まで同じ学校に通っていて何度か同じクラスになる事もあったんだ、だから、少なからず天ヶ瀬さんとは縁がある気がして、他の同学年の生徒達よりは少しだけ気になるっているだけだよ」


 少し嘘を混ぜつつも大和がそう口にすると。


「へー、そうなのか、小学校から今までずっと同じ学校に通っているなんて、確かに何かしらの縁があるのかもね、でも、橘くんの視線はそういうのとは違う様な……」


 湊がそう呟くと。


「キーン、コーン、カーン、コーン」


 予鈴のチャイムが鳴り、同級生たちが続々と自分の席に座り始めたため。


「この話はこの辺にしておこうか、いつまでもこんな話をしていたら誰かに聞かれるかもしれないからな」


 大和がそう言うと。


「それもそうだね、ごめん橘くん、急にプライベートな事を聞いてしまって」


 少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべて湊がそう言ったので。


「いや、気にしないで良いよ」


 大和はそう言ってこの話はここで終わった。


 その後、朝のホームルームを終えて学校生活が始まったが、その後は特に何事もなく、大和は真面目に授業を受けて。


 帰りのホームルームを終えて、2年A組の担任の教師が教室を出て行くと。


「……ガタッ」


 優衣が自分の席から立ち上がり、直ぐに教室を出て行こうとしたので。


「あれ、天ヶ瀬さん鞄を持って無いけど何処かに行くの?」


 優衣の隣の席に座っていた女子生徒がそんな事を聞いたので。


「ええ、今から少し用事があるのです」


 その言葉を聞いた優衣はそう答えたので。


「あー、そうなんだ……頑張ってね、天ヶ瀬さん」


 その言葉を聞いた女子生徒が微妙な表情を浮かべてそう言ったので。


「……ええ、頑張ります」


 優衣は少しだけ複雑そうな表情を浮かべてそう言って、少し早足で教室を後にした。そして、


「ガタッ」


「あれ、橘くん、どうかしたのかい?」


 席から立ち上がり、優衣と同じように荷物も持たずに教室を出て行こうとした大和を見て、松下湊がそう聞いて来たので。


「ちょっとトイレに行くだけだ、ただ、その後少し用事があるから松下くんは先に帰って貰っていいよ」


 大和がそう答えると。


「そうか、分かったよ、それじゃあ橘くん、また明日」


 松下湊はそう言ったので。


「ああ、また明日」


 大和はそう言葉を返し、1人静かに教室を後にした。

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