第5話 夜ご飯

「ところで大和くん、今日の夜ご飯は何を食べる予定なのですか?」


 話が一段落すると不意に優衣がそんな事を聞いて来たので。


「ん? そうだな、取りあえず今日は適当にコンビニ弁当で済ませるかな」


 大和がそう答えると。


「もう、駄目ですよ、そんなモノばかり食べていると体に悪いです、大和くんも料理が出来るのですから偶には自炊して下さい」


 少し心配そうな口調で優衣がそんな事を言ったので。


「そう言われても俺はお前ほど料理が上手く無いし、そもそも自分1人の為に料理をする気が起きないんだ」


 大和がそう答えると。


「そうですか、それなら今日は私が何か夜ご飯を作りましょうか?」


 優衣はそう提案してきたが。


「いや、さすがに朝も昼も優衣にご飯を準備して貰ったのにそれは申し訳ないよ」


 そう言って、大和が断ると。


「そうですか、でも大和くんがコンビニ弁当ばかり食べているのは正直見過ごせませんし……あっ、そうです」


 そこまで言って、優衣は一度言葉を切ると。


「それなら今日は私も大和くんの家で夜ご飯を食べて帰るので、大和くんが私たちのご飯を作って下さい、自分の分だけの料理を作るのが嫌という事ですから2人分の料理を作るのなら問題ないですよね?」


 優衣は笑顔を浮かべてそんな事を言ったので、その言葉を聞いた大和は、


「まあ、それはそうだけど、でも良いのか? 俺の家で食うよりお前の家で食べた方が絶対に旨いモノが食べられるぞ」


 大和が優衣にそんな事を言うと。


「それは大丈夫です、確かに私の家で食べた方が美味しいモノが食べられますが、それよりも私は好きな人と一緒に過ごせる時間の方を大切にしたいですから」


 笑顔でそんな事を言われて大和は一瞬黙ってしまったが、自分の内心を優衣に悟られたくなかった大和は、


「という事は、優衣にとって家族は好きな人じゃないって事か」


 一瞬好きな女の子を虐める男子小学生みたいな心理になり、咄嗟にそんな言葉を口にすると。


「もう、そういう意味では無いですよ、意地悪な事を言わないで下さい」


 不服そうな表情を浮かべて優衣はそう言ったので。


「分かってるって、少しからかっただけだ、それじゃあ晩御飯は俺が作るけど、あんまり上手く出来なくても文句は言うなよ」


 少しだけ申し訳なさを思えつつも大和がそう言うと。


「ええ、分かりました、ふふっ、久しぶりに大和くんの手料理が食べられると思うと今からとても楽しみです!!」


 嬉しそうに微笑みながら優衣がそんな事を言ったので。


(……そんな風に言われたら頑張るしかないだろ)


 大和は内心そんな風に思いつつも。


「いつも通り適当に作るから、あんまり期待せずに待っていてくれ」


 大和はそう言って台所へと向かった。


 そして、台所に付くと冷蔵庫を開けて中にある材料を確認して、何を作るか決めてから。


「……よし、やるか」


 大和はそう言って、2人分の夜ご飯を作り始めた。




 その後、料理を始めて数十分経ってから。


「優衣、出来たぞ」


 そう言って、大和はリビングに2人分の大皿を持って行って机の上に置いた。すると、


「カレーですか、いい匂いがしてとても美味しそうです」


 優衣はそう言ったので。


「簡単なモノで悪いけどこんなので良かったら食べてくれ」


 椅子に座りながら大和がそう言うと、先に席に着いていた優衣は大和が持って来たスプーンを手に取り。


「ええ、頂きます!!」


 そう言って、優衣はゆっくり味わう様にカレーをひとくち食べたので。


「……どうだ?」


 少しだけ心配そうな口調で大和がそう聞くと。


「ふふっ、とても美味しいです」


 優衣はそう答えたが。


「本当か? 何か駄目な所があれば遠慮なく言ってくれて良いんだぞ」


 大和は再度そう言ったので。


「もう、そんなに疑うのなら自分で食べてみたらどうですか?」


 優衣がそう言ったので。


「ああ、そうだな」


 大和はそう言って、自分が作ったカレーをひとくち食べると。


「どうですか?」


 優衣は大和と同じようにそう聞いて来たので。


「……ああ、上手く出来ていると思う」


 遠慮がちに大和がそう言うと。


「そんなに不安そうにしなくても、ちゃんと美味しいので安心して下さい」


 優衣は笑顔でそう言ったので。


「そうか、ありがとう、優衣」


 大和がそう言うと。


「いえいえ、こちらこそ美味しいカレーを作って貰ってありがとうございます、よかったら今度もまた何か料理を作って私にも食べさせて下さいね」


「……まあ、気が向いたらな」


 そんな風に適度に雑談を交えながら2人はカレーを食べ終えた。




 その後、大和は皿洗いを終えてソファーに座っている優衣の元へと向かい、彼女の隣に座ると。


「あの大和くん、実は迎えが来るまで少し時間がかかるみたいなので、久しぶりにあれをお願いしたいのですが良いですか?」


 優衣は上目遣いで大和の方を観て、甘える様な口調でそう言った。

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