第5話 ラジオ革命その後

 二人にとって散々だった〈ラジオ革命〉において、強いて救いを見出すとすれば、宇賀が笑っていた、ということぐらいであろう。

「馬鹿じゃないの」と言いながら、彼女はその馬鹿さ加減に忍び笑いを浮かべていたのだが、二人がそのことを知ったのはずいぶん後だったし、それを知ったところで三國には何の慰めにもならなかった。

 革命以後、三人は自然と親しくなり、ああだこうだと言いつつもつるんでいた。二人と関わるようになり、三國は人生十六年目にして、他人と密接に接することの喜びとストレスとをひしひしと感じていた。立花は複雑で不安定な人間ではあったが、根が善寄りの人間であったため、本格的な悪事に巻き込まれるということはなかったが、いかんせん宇賀を射止めるためとあらば実に間抜けなことを計画し、実行に移してしまうため、三國はいつもそれに巻き込まれて迷惑を被りまくっていた。

立花にとって人生とは、宇賀と結ばれて幸せになるためのものであり、そのためとあらば彼はどんな努力も厭わなかった。が、それらの努力がついぞ実ることはなく、今に至る。まあ、それらの努力があまりに見当違いであったせいでもあるのだが。

 そんなこんなで三人は高校を卒業した。宇賀はともかく、三國と立花が三年で卒業できたのは奇蹟である。

 誰が言い出したわけでもなく、三人は同じ大学を志願していたのだが、まず宇賀が土壇場で大学のレベルを三段階ほど上げて、立花がそれに合わせて宇賀が受験する大学と近い大学を受験することとなり、二人は合格した。その際の立花のはしゃぎっぷりは人々がスマホを向けることすら躊躇うほどであった。

 三國は元々行く予定だった大学に落ちたので、滑り止めの大学に進学したのだが、その大学というのが二人の大学とそう離れておらず、これもまた誰かが言い出したわけでもないのだが、三人は同じ地域に住むこととなった。どこに住んでいるかは先述した通りである。大学進学後もしょっちゅう会っては、かつてのような日々を積み重ねていた。立花は宇賀を射止めるために馬鹿げたことをし、三國がそれに巻きこまれる。宇賀はそんな二人を見て楽しそうに笑う。三國はともかくとして、立花は宇賀に笑ってもらえればそれで充分だった。三國の大学生活は何の発展も衰退もなく、二年で幕を閉じた。立花はまだ在籍こそしているものの、親元を離れたとたんに三國をも凌ぐ勢いで自堕落かつ怠惰になった。千里の道も一歩からとはよく言ったもので、堕落の道すら一歩踏み出してしまえば、そして一歩ずつ前にさえ進んでいれば、かくも堕落してしまうのであり、立花はその身をもってそのことを証明していた。もはや偉人になることなど不可能と思われるまでに堕ち、このまま落ちまくって地中深くまでめり込んで地球誕生の真相でも解明した方がよっぽどいいのではないか、偉人にもなれるし、という域である。三國ですら到達できない境地に、立花は着々と向かっているのである。もちろん、三國だって負けていないが。

 宇賀はそんな堕落コンビの転落に付き合う気はなく、着々と大学生活を謳歌していた。二人以外の友人を持ち、単位をせっせと取得し、幾度かの「どうする?もう付き合う?」という中途半端な告白を退け、友人のグラスに仕込まれたよからぬ錠剤をさり気なく取っ払い、後輩のウーロンハイをウーロン茶に変えてあげ、サークルを我が領地として邪知暴虐の限りを尽くす先輩を叩きのめしていた。


 長くなってしまったが( そこまで長くもないが) 、ここからが本題である。どうぞ気楽に、気軽に、なんなら手の汚れにくいお菓子でもつまみながら読んでいただきたい。

 この小説に難解な部分は一切ない。何のメッセージもなく、ややこしいメタファーも、社会風刺も何もない。だから、何かしらの難しいテーマを中心に据えた重い本を読みたい方は、本書を一旦閉じて、〇〇〇〇でも読むといい( 〇〇〇〇の部分には、好きな作品を入れてどうぞ) 。

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