21.怒り
ヴァイトは近くの露店でお酒を片手に座って待っていた。
「すまん待たせた」
「たいして待ってねぇよ。それよりいい物は買えたか?」
「ああ、お陰様で。ルルもこれなら喜んでくれると思う」
「それは良かった、それじゃあ後やることは下見ぐらいだが、その前にこれを飲み終わるまでここで一杯付き合ってくれよ」
「まだ一様未成年なんだけど」
「ワッハハハそんな辛気臭いこと言ってねーでとりあえずここに座れ」
酔っ払いに促されるまま席に座ると、いつの間にか頼まれていたエールが二つ机の上に運ばれた。
「それじゃあ乾杯」
「乾杯」
初めて飲むエールは苦くつい顔を顰めてしまうがそれを見て大笑いするヴァイトを見て我慢して流し込んでいく。
幸いお酒が強かったため一杯で酔い潰れることもなく楽しくヴァイトと初めての街を楽しみながら談笑に花を咲かせる。
ヴァイトのお酒も残り僅かになり席を立とうとした時後ろから思わぬ話題が飛び出してくる。
「今日の新聞見たか、とうとうチャールズ•スターリング様が宮廷魔法師第一席になられたらしいな」
「もちろん見たよ、最年少だもんな。天才だの神童だのって昔から騒がれてて、色々逸話とか伝説とかは聞いていたけど改めて別次元の人だって思い知らされたな」
奴の話題に思わず立ち上がり話している2人組を問い詰めようとするが、ヴァイトに手を掴まれ席に戻されると再び聞き耳を立てる。
「間違いねーな。それでもこの国1番の魔法の使い手が僅か22歳なんて笑うしかないな」
「あれだけの天才なら納得するしかないだろ。それに最近は光魔法だけに飽き足らず魔道具やら精神魔法にまで研究分野を広げてるらしいしな、若いのにこの国の為にそこまでやってくれるなんて頭があがんなねーよ」
「本当にすごい方だぜ。これでこの国よ向こう100年は安泰だなハハハハッ」
奴の裏の顔など知る由もない人間が囃し立てる事に、はらわたが煮え繰り返るが、必死に感情を押し殺し、この場は情報集めに専念する事にした。
「すいません今話していたスターリング様の話もっと詳しく伺ってもいいですか?」
後ろの2人組に知らん顔で聞いてみると、2人の視線がアルを捉える。
チャールズ•アルベルべはスターリングと違いそこまで有名で無い上に隠蔽魔法を使い姿を多少変えているため万に一つもアルベルべだとバレる事は無いが、僅かな静寂に体から冷や汗が噴き出る。
「お前さては……スターリング様のファンだな!」
「おうおうそう言うことか!ならこっちに座れ!俺達はこれでも宮廷魔法師ファンだからなんでも聞いてくれでいいぞ!」
お酒が入っている事で上機嫌になっている為かすぐに打ち解け、2人は次々とスターリングの情報を話し出した。
残念ながらスターリングを殺すにあたっての有益な情報を得る事は出来なかったが、やはりランドルの件は裏でスターリングが手を回していた為か公の発表ではチャールズベラルが王国に反逆した事になっており、スターリングは肉親を殺してでも王国を守った英雄として語り継がれていた。
どこまでもチャールズ家を冒涜し自身の地位しか考えていない奴の振る舞いに心の中の復讐の炎が業火となり全身を焼き焦がす程の怒りが込み上げて、今にも爆発しそうになった時、その様子を見ていたヴァイトが俺を2人から回収し人通りの無い裏通りに連れて行く。
「クソ!!!!!!!!」
怒号が夜空に放たれる
「落ち着け。今ここで怒りに飲まれても目標から遠退くだけだ」
「分かってるよ!それでも奴がのうのうと生きてるだけでも殺してやりたい程憎いのに、ランドルのために命を掛けて戦った父上の顔に自分の保身の為だけに泥を塗ったんだぞ!許せる訳ないだろ!!」
「…………すまない、お前の気持ちを考えずに発言してしまった」
静寂が2人を包む
「……俺の方こそごめん。ヴァイトが俺の為に話してくれてるのは分かってるんだ。それでも、どうしても奴の話になると怒りが抑えきれなくなってしまう、、」
アルの頬に一筋の涙が流れる
「残念ながら俺にはアルの深い絶望や怒りや憎しみを完全に理解することはできない。だから無理に我慢しろとは口が裂けても言えないが、それでも俺はお前を守りたいんだ。だから今後は自分の感情が抑えきれなくなった時は俺を頼よってくれ。絶対にお前を助ける。」
ヴァイトの言葉はどこまでも愚直に真っ直ぐで、不器用ながらでも確かに俺の心を軽くした。
「ヴァイト……!いつも俺を助けてくれてありがとう…」
数え切れないほどの感謝が心に満ちて行く。
「馬鹿野郎!頭なんて下げてんじゃねぇーよ!困ってる子供がいたら助ける。こんな事は自然界の当然の摂理だ、分かったか!」
ヴァイトの勢いに思わず笑ってしまい、それに釣られてヴァイトも笑い出す。
ひとしきり笑った後はレオンさん達が休む宿にやってきて俺たちも休みを取った。
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