20.プレゼント

 街は来週に控えた七星祭の準備の真っ最中で深夜なのに活気に溢れており、至る所で人々が忙しそうに作業している。

 そんな喧騒の中をポロを引き連れ歩き、よく使っていると言う宿にやってきた。

「今日はここで休憩して俺とアルは明日帰る予定だが、レオン達はこのまま先に行くんだよな?」

「ああ、ここで明日の日が暮れるまで休憩したら目的地まで行くつもりだ」

「レオンさん達はここに用事があったわけじゃないのか?」

「俺とエドはここを抜けた先にあるポンガっていう大都市に用があるから、こっからさらにもう一日掛けてそっちまで行ってくる」

 懐かしい名前を聞き昔家族で何度か訪れた事を思い出す。

 ポンガはフォロウェイ王国で3本指に入る大都市であり、街中に張り巡らされた水路が綺麗に入り混じりあい、その美しさから別名水神の都と呼ばれている。

「ここからさらに進むなんて結構大変ですね」

 「別に往復5日間ぐらいだからそんなに大変じゃない。それよりこんなとこで雑談してないでさっさと用事に行け」

 レオンさんに催促され厩舎に馬を預けると再び街の喧騒の中に溶け込む。

 ひとまずヴァイトと2人で冒険者ギルドと呼ばれる建物にやってきた。

 中ではお酒を片手に多くの人が騒いでいて、その間をすり抜け受付にたどり着くとヴァイトがカードを提示する。

「本日はどの様なご要件ですか?」

 受付の女性が夜にも関わらず明るい口調で対応してくれる。

「魔獣の素材の買取をお願いしたい」

「買取ですね。そうしましたらこちらにお越しください」

 受付の女性に引き連れられ奥の大きな机が置かれたスペースに案内される。

「そうしましたらこの上に買取されたい素材をお出しください」

ヴァイトは肩に担いだ麻袋から最近狩った魔獣の牙や爪、皮などを取り出していく。

 机いっぱいに素材を並べ終えると先ほどまで笑顔を浮かべて居た受付の女性の顔が少し引き攣る。

「……以上でございますか?」

「ああ、鑑定と買取の方よろしく頼む」

「かしこまりました。ただ量が量ですので少々お時間いただいても大丈夫ですか?」

「ああ構わない。ただこっちに分けた分だけ先に鑑定して今買い取ってもらう事はできるか?」

ヴァイトは右側に寄せた素材を指差し受付嬢にお願いする。

「はい、これぐらいの量でしたら10分ほどで終わりますので後ろにある席に掛けてお待ちください」

 鑑定は予定通り10分ほどで終わり、金貨が5枚入った小さな麻袋を渡される。

 現在フォロウェイ王国では鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨が流通しておりそれぞれ10枚で一つ上の硬貨と同じ価値になる。

 そんな中、金貨は4人家族の1ヶ月分の生活費を払っても余裕でお釣りがくる程の金額であり、そんな金貨が5枚も入った麻袋を持つと何かいけない事をしている気分になった。

「残りの素材は明日までには鑑定し終わると思いますが受け取りはどうなさいますか?」

「そしたら俺の口座に入れといてくれ」

「承知いたしました」

 こうして手続きが終わると麻袋を懐に隠し、そそくさとギルドを出て街に繰り出す。

「なんでこんな大金俺に預けて歩かせるんだよ」

 人混みが減った所でヴァイトに麻袋を渡そうと懐から出すも、受け取るのを拒否されてしまう。

「なんでも何もそれはお前の稼いだ金だからお前が持つに決まってんだろ」

「え?」

 間抜けな声が口から漏れる

「だから、そのお金はこの3ヶ月でお前が狩った魔獣の一部を買い取ってもらった分だからお前のお金だ」

「マジかよ……て言うかわざわざ俺が狩った分を別で保管してくれてたのか?」

 知らず知らずのうちに大金を稼いでいたことと、ヴァイト意外にもまめな行動にをしていた事に驚く。

「祭りの日は俺がお金を払うからいいが、誕生日プレゼントは自分で稼いだお金で買った方がいいかと思ったから、一様な」

「ヴァイトにそんな気遣いができるなんて驚いた…」

「ワッハハハ!お前は俺をなんだと思ってるんだ」

「冗談だよ色々気を遣ってくれてありがとな」

感謝を伝えると何故かヴァイトから拳骨が飛んできた。

「っいて、なんでだよ」

「うるせぇ、それよりここら辺から屋台と店がやってるから覗いていくぞ」

 心なしか顔が赤くなってるヴァイトを横目に道を進んでいくと大通りにでる。

 大通りには露店やお店が所狭し乱立しており、ついついキョロキョロしながら眺めていると小さめな宝石屋が目についた。

「ちょっとあそこのお店に入っていいか?」

「いいぞ、と言うかアル1人で見た方が色々と集中出来るだろうからここら辺で適当に飯でも食って待ってるわ」

そう言いヴァイトは明後日の方向に歩いていってしまう。

 仕方なく1人でお店に入ると、幾つもの宝石が綺麗に陳列されて七色の輝きを放っており、宝石達から歓迎されている気分になる。

並べられている宝石を一つ一つ見ていると綺麗に整えられた白髭がよく似合う紳士的な初老の店主が声をかけてきた。

「ご来店ありがとうございます。本日はどの様な物をお探しですか?」

「えっと友人…恩人にプレゼントを贈りたくて見にきました」

「左様ですか。そんな大切な贈り物に当店を選んでくださりありがとうございます。小さいお店ではございますが必ずお客様のご希望にそった商品をお渡しできると思います。不躾な質問ではございますがご予算などはお決まりでしょうか」

「一様金貨5枚までで探しているんですがありますか?」

「承知しました。宜しければこちらにお越しください」

店主に案内された先にはネックレス、ピアス、指輪とさまざまなな宝飾が並べられている。

「こちらの展示しているものは全てご予算以内に収まっておりますのでごゆっくりご覧になってください」

 展示されているものはどれも綺麗な輝きを放っておりついつい見惚れてしまうが、その中に一つ、より一層目を惹きつけるものがあった。

「すいません、このブローチを近くで見せて頂いてもよろしいですか?」

 反射的に近くで見てみたくなり頼んでみる。

「かしこまりました。少々お待ちください」

 丁寧な手つきでショーウィンドウを開けるとブローチが取り出され、目の前に置かれる。

 ブローチの真ん中に新緑に輝くのライトグリーンの宝石控えめでありながら上品な存在感を放ち、その周りには白色の宝石が幾何学模様にまるで中央の宝石を優しく包み込む様に綺麗に整列している。

 近くで見るとより一層美しさと上品さを感じ、ついつい見惚れてしまった。

 「こちらの中央に位置する緑色の宝石が翠輝石、そしてその周りを囲む様に散りばめられた白色の宝石は白月石となっております。それぞれの宝石言葉は翠輝石の方が感謝としん愛、白月石の方が救済となっております」

「感謝、親愛、救済…」

 見た目だけでなく宝石の意味もルルに贈るのにピッタリである事に思わず言葉を失ってしまう。

 その様子をじっと見つめていたご主人が落ち着いたトーンで話し出す。

「我々宝飾商の間では宝石は人間だと言われています」

 「人間…ですか…」

「はい、彼らは運命の人と人が巡り合う様に、自分を必要とする主人の元に必ずたどり着く。そして巡り合った時彼らは世界で唯一無二の輝きを放つのです」

 ご主人の話は一切の澱みなくアルの心に染み渡り、このブローチがルルの元に行きたいと言っている気がした。

「このブローチを頂いてもいいですか?」

「かしこまりました。お渡しのご用意を致しますので今しばらくお待ちください」

 宝石の不思議な力に魅了され購入を決めると店内で待っていると、先ほどのご主人の言葉を思い出し、待っている間店内を見渡しながら並んでいる一つ一つの宝石の物語に思考を巡らせる。

「お待たせいたしました、お渡しの準備完了致しました」

 いつの間にか会計机の上には箱に仕舞われ、包装を終えたブローチが用意されていた。

「すいませんついつい見惚れていて気づきませんでした」

「お気になさらず、宝飾商としてお客様が宝飾に見惚れてしまう事以上に嬉しい事はありませんから」

 無事にお会計を終えるとご主人に出口まで見送られる。

「お客様の手によってこちらの宝石達が運命の主人に巡り会える事、そしてなりよりブローチを受け取られたお客様の恩人様に喜んでいただける事を心よりお祈り申し上げます」

 最後まで子供で合っても丁寧で紳士的な接客をしてくれたお主人に感謝を伝え、お店を後にした。

 

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