18.告白
「よし!改めてよろしく頼む」
拳を握り込み小さくガッツポーズをする。
「それにしても剣術は教えてるから上手くなってるのは知ってたが、この短期間で2つも新しい魔法を作ってるとは思わなかった」
血操魔術と樹木魔法を解除しながらアルの魔法に感心を示す。
「まだまだ改善の余地はあるけどな。ルルに協力してもらったおかげでなんとか形にすることが出来たよ」
「これでもまだ納得してないのか、次はどんな魔法を作るんだ?」
アルの先の見えない向上心に関心を示しつつ尋ねる。
「まだ具体的に決まってる訳ではないけど、より強力な自己強化を行える毒と、対象の動きを制限できる様な毒を作る予定」
アルの次の予定聞いたが、想像していなかった回答を疑問に思いヴァイトがさらに尋ねる。
「なんかもっと高火力の魔法を作ると思ってたから意外だな」
「今回の海月と自己強化を開発するに当たって毒属性の弱点と強みが分かったからな」
「ほう?それはどこだ」
興味深そうに耳を傾ける。
「単純な火力やスピードだと毒属性はどうしても物足りない。例え第六界魔法を使える様になっても正直高がしれてる。だから他の方法で模索してみた結果この魔法は一時的な自己強化と自分に有利な戦闘環境作りに使うのが有効だって結論に至った」
「あくまで戦闘のサポートに使うってことか」
「ああそうだ。触れた相手を即死させる毒なんかも作れれば良いんだが残念ながら今の俺の魔力だと逆立しても無理そうだからな。あくまで現実的に尚且つ一人の相手を確実に殺す為にはこの用途が一番効率的で可能性がある」
「なるほどな。お前が見つけた可能性にケチを付けるつもりはないがさっきの自己強化で身体は大丈夫なのか?」
「これでも毒の量はかなり調整してるからとりあえず5分程度だったら問題ない」
「なら良かった。とりあえず無理して死に急ぐなよ」
「復讐が終わるまではしなねぇから安心しろ」
「例え終わっても死ぬんじゃねよぇ馬鹿か」
ヴァイトの拳骨がアルの頭に送られる。
「っ痛!何すんだよ」
「馬鹿を直してやっただけだ。明日からは狩りに行くから今日はよく休めよ」
頭を抑えるアルを横目にヴァイトは訓練場を後にした。
残された空間で今日の模擬戦の反省点を思い出し一人感想戦を行った後日課になっている周魔と練魔、さらに刀の素振りを行う。
全部終わった頃には模擬戦から5時間ほど経っていた。
訓練場からの帰り際、図書館に向かいルルに今日の模擬戦の結果を伝え、魔法の開発に協力してくれたことに改めて感謝を伝える。
「改めて魔法の開発に協力してくれてありがとなルル、模擬戦には負けちまったけどおかげで明日から狩に行ける様になった」
「全然何も出来ていないけれど、アルくんの助けになってたなら良かった」
「これからもまた頼ってもいいか?」
「もちろん、私でよければいつでも頼ってね」
ルルに改めて感謝を伝え図書館出ると何故かルルも後ろについてきていた。
「どうしたんだ?」
「実は今日ヴァイトさんにアルくんと3人で夜ご飯食べないかって誘われてたんだ」
ヴァイトの珍しい行動に困惑しつつそれならと一緒に家に向かった。
家の前に着くといつもならついている灯りが消えており、辺りも不自然に静かだった。
違和感を拭えないまま恐る恐る玄関の扉を開け、2人で中に入ると
パーンという乾いた破裂音が前後から鳴り、音と共に火薬の匂いが鼻腔をくすぐる。
「アル誕生日おめでとう!!!」
「アルくんお誕生日おめでとう!」
2人の声が祝福が聞こえた後、暗闇に潜んでいたヴァイトが飛び出し電気をつけると豪華な食事が並んでいた。
「俺が誕生日なんて覚えてるとは思わなかっただろワハハハ」
「この前会った時2人でアルくんのサプライズお誕生日会を開こうって話してたの」
ヴァイトの笑い声が家中に反響し、嬉しさと恥ずかしさが心の中で入り混じり合う。
「俺の為にわざわざこんな用意をしてくれてるなんて驚いた…ルルは兎も角正直ヴァイトは絶対覚えてないと思ってた」
「ワハハ、甘いな俺はこれでも物覚えはいい方なんだ!まあとりあえず座って14歳の誕生日を祝おう!」
突如始まった誕生日会は最初は照れ臭かったものの、すぐに楽しくなった。
1時間ほど3人で楽しく話しながら食事をしていると、ふとこうして和気藹々と誕生日をお祝いされるのは母の死後初めての事だと思い出す。
感傷の思いが湧きだし、2人を見ていると自然と涙が溢れ出しててきた。
「あれ、なんで……おかしいな………」
自分でも予想していなかった涙に驚き、堰き止めようと何度も目を擦ってみても何故だか一向に止まる気配はない。
「ごめんちょっと……」
自分の体がおかしい挙動を示していることを2人に見られたくなくて2階の部屋へ行く為に席を外そうと立ち上がると横にいたルルに手首を掴まれる。
「アルくん、すいません私は今まで貴方に何か辛い過去があることを知りながら見てみぬフリをしてきました。でも今のアルくん涙を見て、これ以上1人で抱えてこませてはダメだって思ったの。だからお願い貴方の願いを、苦悩を教えてほしい」
「アル、俺からも頼む。お前は優しくて情に厚いから迷惑をかけない為に言わなかったんだろ。でもこれ以上1人で背負っていたらお前は壊れちまう。もし俺に話すのが嫌ならルルにだけでも構わないから話してくれないか?」
2人の真剣な眼差しが心を貫く。
「2人ともありがとう。聞いててとても気持ちのいい話じゃ無いけど聞いてくれるか?」
ゆっくり席に座り直すと2人は無言のまま頷いた。
俺はランドルで生まれてからの幸せな日々、母の死、兄の裏切り、そして兄への復讐についてゆっくり2人に話し出した。
話していると幾度となく父と母の顔が浮かび悲しさと切なさが溢れ出し、そして兄の顔が浮かぶたびに憎悪と殺意が湧き出してくる。
渦巻く感情に流されない様冷静さを保ちながら話を終えると、ヴァイトは目を瞑りながら腕を組み険しい表情を浮かべている。
次に横に座るルルの方を向くと俺の手に優しく触れたまま真っ直ぐこちらを見て、静かに涙を流していた。
「どうしてルルが泣くんだよ…」
ルルの流す涙はあまりにも美しく思わず少し笑ってしまう。
「ごめんなさい…泣くつもりは無かったの、でもアルくんのこれまでの思いを想像すると止まらなくなっちゃって、ごめん」
「謝らないでルル、寧ろこんな話を聞いてくれてありがとう」
ルルは首を左右に一生懸命振り、俺の目を見ながらゆっくりと言葉を紡ぎ始める。
「今のお話を聞いてまだ会って1年も経ってない私の言葉はなんの慰めにもならないし、でもだからといって軽々しく可哀想とか、復讐は辞めて、なんて共感するのは違うと思うから、、でもせめてこれだけ言わせて、、ここまで生きてくれてありがとう」
ルルの言葉は優しく俺の心を包み込み、止んだはずの涙が再び溢れ出てくる。
そんな俺をルルは静かに抱きしめてくれた。
しばらくすると涙は止み、心が少しだけ軽くなった気がした。
するとヴァイトが目を開き静かに話し出す。
「まずは辛い話を話してくれてありがとう。そして俺もルル同様お前のこれから先の行動を否定するつもりはねぇ。だけど一つだけ俺と約束してくれ。どうか生きて、もしその目標が終わった今度は自分の幸せの為に生きてくれ」
「…分かった。必ず約束する。」
こうして俺の14歳の誕生日会は幕を閉じた。
ルルを家まで送り届け、帰ろうとした時「あの……」と再び手首を掴まれる。
「どうした?」
「これお誕生日プレゼント。改めてお誕生日おめでとう」
ルルの手には綺麗な箱が握られており、開けるとネックレスが入っていた。
ネックレスは白く上品な紐で出来ており飾りの部分には小指の先ほどの黒い鉱石が優雅に鎮座している。
プレゼントまで用意してくれているとはつゆ知らず驚いていると、そっと近づき首元に付けてくれた。
「この石は黒護石と言って、身に付けてるひとを一度だけ護ってくれると言い伝えられてるの」
「ありがとなルル。大切に付けさせてもらうよ」
「どういたしまして、ふふ」
ルルの微笑みを見て心が安らぐ。
「そういえばルルの誕生日はいつだっけ?」
「7月7日だよ」
「分かった」
「プレゼント楽しみにしてるね」
「とびきりの奴を用意しとくよ」
ルルはさらに綺麗な笑顔を見せて家の中に入っていき、俺も帰路に着いた。
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