17.2度目の模擬戦

「そしたらさっそく模擬戦を始めるか。結果次第で狩に連れていくか決めるから精々頑張れよ」

 「ああ、この数ヶ月で会得したものを全部ぶつけさせてもらう」

 ヴァイトが魔法を唱えると半年前に初めて行った模擬戦同様20m四方の舞台がせり上がり二人の手元に木刀が作られる。

 この数ヶ月の修行を経て周魔は1時間程度であれば動きながらでも行える様になり、練魔も同様に7割ほどなら戦闘中にも使える様になっていた。

 二人の間に張り詰めた空気が漂い、ヴァイトが上に放り投げた石が舞台に落ちる。

「第三界毒魔法 大蛇」

 全長2m優に超える毒魔力で作られた大蛇がアルの横に姿を現す。

「第一界支援魔法 自己強化」

 全身に力が漲るのを感じ、ヴァイトの元へと一気に駆け出す。

 練魔によって前までだったら中々使うことが出来なかった第三界魔法も今は余裕を持って使える様になり、身体能力も年齢による成長と自己強化、周魔が合わさり前回とは比べ物にならないほど飛躍していた。

アルが一瞬で距離を詰め、地面を這う様な軌道から木刀を切り上げる。

 ヴァイトは上手く受け流そうとするも、指導により上達したアルの剣術がそれをさせず、二人の刀が強く交錯する。

「やるな!アル!」

「こんなもんじゃねぇよ!」

 二人の鍔迫り合いが解除されアルが一発二発と刀を振るった後、姿勢を一気に落とすとヴァイトの足元を薙ぎ払う。

 ヴァイトはこれをジャンプで避けると低姿勢のアルに応戦するために刀を上段に構えるが低姿勢のアルをカバーする様にアルの後ろから1匹の大蛇がヴァイトに向かって飛びかかる。

 巨体でありながら俊敏な大蛇の攻撃に一瞬ヴァイトの目が大きく開くも、上段で構えていた刀を冷静に大蛇の脳天に目掛け一気に振るい、空中に飛び上がった大蛇の脳天を破壊した。

 しかし、破壊されると同時に大蛇は爆散し周囲を毒霧で包みこむ。

「第四界樹木魔法 大樹縛」

 ヴァイトの足元の地面から生えてきた大樹が毒霧を吹き飛ばしながらアルに迫る。

以前は捕まってしまった魔法であったが今度は後ろに下がりながらの見事な体捌きで迫り来る大樹を避けて見せた。

「前にも見たことのある様な攻撃は俺には効かないぜ」

 余裕綽綽な雰囲気で今生えてきた大樹の幹の上に立ち、刀を肩に置きながらこちらを見下し問いかけてくる。

「やっぱりこれじゃ駄目か、まあここからが本番だ」

 「第四界毒魔法 海月」

 アルの後ろに全長3m程のクラゲがぷかぷかと浮いて現れる。

「もう第四界魔法を扱える様になってるとは驚いた」

「まだまだこんなもんじゃねぇよ」

 ヴァイトが成長に感心しているのも束の間、アルはニヤッと不敵な笑みを浮かべる

「どのみち長期決戦だと厳しいから次で決めさせてもらう

 第五界毒魔法 邪血」

 アルが自身の首元に人差し指を突きつける。

 身体の血管が浮き出し、肌の色が薄い紫色に変色する。

「いくぞヴァイト」

 ヴァイトが予想だにしていなかったアルの変化に驚いていると巨大なクラゲが動き出す。

 触手がヴァイト目掛けて一斉に迫っていき、立っていた樹木に一本の触手が直撃しすると大きなクレーターが形成させる。

後ろに飛ぶ事で避けたヴァイトであったが、クレーターを作る破壊力と触手に触れた箇所が溶けていることに驚き、表情から余裕が消える。

中々凶悪な魔法を習得して嫌がるなとっ内心思いつつ刀で切り付け破壊してもすぐ再生し迫ってくる触手。

 

―流石にもう前みたいに魔法を使わないでってことは出来ねぇか―

「第四界樹木魔法 樹木壁」

 地面から生えた樹木がヴァイトの盾になり触手と衝突する。

 触手の突進を樹木で止められたことに安心しているのも束の間、ジュッと音を立てながら触手が樹木を貫通してきた。

 先ほどの魔法よりも強度の高い樹木であっても溶かす毒の威力に驚きつつ後方に飛び上がり回避し、クラゲの方を見る。

 するとさっきまでいたはずのアルが消えていることに気づいた。

 どこ行った、と辺りを見渡そうとした時ヴァイトの背後からひりつく様な禍々しい魔力を感じる。

「こっちだ」

 背後からとてつもないスピードで振られた刀をなんとかしゃがんでかわすも、回転の勢いを活かして繰り出された回し蹴りがヴァイト直撃する。

 舞台中央にまで吹き飛ばされ地面に叩きつけられたがなんとか受け身を取り体勢を立て直すも、アルはもう既に目の前に迫り刀を振り抜いてくる。

 お互いの刀が激突するが先ほど受けた時とは比べ物にならないほどの力とスピードにヴァイトの方が防戦一方になってしまう。

矢継ぎ早に繰り出させるアルの攻撃は止まることを知らず、さらに後方からも触手が迫り捌ききれなくなり、遂にアルの刀がヴァイトの手首捉え、鮮血が舞う。

 ―俺の勝ちだ!―

 ヴァイトの絶対絶命な状態にアルが勝ちを確信した時、ヴァイトの雰囲気が変わった。

「血操魔術 創刀」

手首から流れ出た血が固まり刀を成形すると目にも止まらぬスピードで触手を切り裂き破壊してしまうと、再生する間も与えずアルに刀を向ける。

 あまりの早技に一瞬反応が遅れるもなんとか迎え撃とうと木刀を振るったアルであったが、刀がぶつかった瞬間最も簡単にアルの木刀は切断され、そのままアルの首筋ギリギリの所まで迫りった所で停止した。

「……参った。

 第五界毒魔法 解毒」

 アルが両手を上げ降伏し、浮き出ていた血管や肌の色が元に戻る。

 ヴァイトがニカッと笑みを浮かべ笑い出す。

「まさかここまで追い込まれるとはな、ついつい本気を出しちまったよ」

「勝つつもりだったから悔しいがあんたに本気を出させただけで今回は満足することにするよ」

「模擬戦の結果だが、これなら狩に連れて行っても十分通用するから今度からついてこい」

 ヴァイトにも通用するほど強くなれた喜びとまた負けた悔しさが入り混じるがここはひとまず喜ぶことにした。

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