四の上 劉邦おじさん、なんか、立つ
最大の政敵であった太子
そのため遠方の者も近場の者もみな恨み、盗賊が蜂のように湧き起こった。
山東、山西、河南、河北、
*
そうした不穏な情勢の中、全く無名であった二人の
一人は
もう一人は
この二人、
ところが、
もし指定の期限までに到着できなかったら、斬罪に処せられることになる。
そこで
「この大雨のせいで、もう到着の期限には間に合うまい。
となれば、首を
たとえ運良く罪をまぬがれたとしても、いつまで続くか分からない漁陽の防衛任務で、無駄に疲弊して死ぬだけだ。
壮士たちよ!
どうせ死ぬのなら、大いに名を
王、諸侯、将軍、宰相、そんな地位が生まれつき決まっているというのか?
そんなことはない!
今、
だから俺は、この命を活かそうと思う。義兵と名乗って民を救い、もし失敗したなら気持ちよく討ち死にして、後の世に名を伝えるのだ。
さあ、みんな! 俺と一緒に立ち上がらないか!」
兵士たちは、みな一斉に同意した。
ならば! と祭壇を築き、
ここから
まず
次に
怒涛の勢いで東方へ進出。
その道中で、義兵の噂を聞きつけた同志が続々と参戦し、膨れ上がった反乱軍は実に総勢数万人。
かくして、
*
さらに、
趙国で……
呉国で……
四海縦横天下、つまりはこの世の全てが、紛争と乱とに満たされた。
一方、国家の存亡にすら関わる大事の時に、
昼も夜もなく遊楽に
そんな、ていたらくであった。
*
さて。
ここで、数年ほど時をさかのぼる。
当時、
年齢については諸説あるが、おそらくこの時30代なかば。
仕事は、
亭というのは、街道沿いへ10里間隔で設置されていた、物資運輸のための宿舎である。周辺の警備なども任務に含まれていたというから、小さな警察署も兼ねているといえようか。
だから亭長といえば、管理人のような、警察官のような、そういう役割であった。
彼の名は――劉邦。
この男がやがて
このときはまだ、うだつのあがらない下っぱ役人の一人でしかなかった。
*
劉邦の出生には、奇妙な逸話がある。
ある日の昼、劉邦の母は、
心地よい陽気の中で、彼女はウトウトと
すると……
突如、夢の中に神が現れた。
唐突な神との対面に、彼女は驚き、目を覚ました。
と、そのとき。
にわかに天が暗転し、雷電が一筋駆け抜けたかと思うと、
この瞬間、彼女は子を
その赤子こそが劉邦なのだという。
ひょっとして、劉邦は龍の子なのではないか――?
それが証拠に、彼の人相は
さらに、彼の
72は、一年360日を木・火・土・金・水の五行で割った値……たいへん縁起の良い数である。
生まれ、顔つき、吉数の
*
劉邦は広く人を愛し、貧乏人への
性格は
そして、ぜんぜん仕事をしなかった。
家業をほっぽりだして遊び歩くこと多年。ふと気がつけば、立派なおじさんと呼べる歳。
しかたなく
はなはだ酒色を好んだので、
しかし、
「みんなは劉邦を軽んじているけれども、私の意見は違う。
あの
まだ然るべき時が来ていないだけだ。ひとたび時を得れば、彼はすばらしく
そしてなんと、娘の
「あの子は
今になって、あんな
しかし
「お前の知ったことではない」
と一蹴し、劉邦を招いて酒を勧めた。
「私が君の人相を見たところ、その
願わくは、私の娘を君の
劉邦は慌てた。
「俺は、この歳になってもまだ不足してることが三つもあるんだ。
一つには、子供っぽくて学がない。
二つには、力が弱くて勇気がない。
三つには、貧しくて自分の暮らしも満たせない。
こんなていたらくなのに、どうしてあなたの娘を
だが
「私の気持ちはもう決まっているのだ。君、断ってはいけないよ」
そしてねんごろに酒を勧め、とうとう劉邦と一家の交わりを結んでしまったのである。
(つづく)
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