第5話

 「真琴!遊びに行くぞ〜!」

 「待ってよお兄ちゃん!」

 (これは…?)

 ゆっくり目を開けると目の前を通り過ぎる子供達。

 「今度こそにいちゃんが勝つ!」

 「おいおいまた涼太が弟に勝負ふっかけてるぞ?」

 「どうせ今回も真琴が勝つんだから涼太も負けを認めたら良いのに!」

 「うるさいぞお前ら!今日こそ真琴を見つけてやるんだ!」

 (また懐かしい夢を…)

 高橋は目の前の光景が夢であることに直ぐ気がついた。弟の真琴が居て、かつての幼馴染たちがいる。そして何よりみんな幼い。こんなに笑って過ごせていたのもみんながいたお陰でもある。

 「おい涼太、今日は何処で勝負すんだよ!」

 「今日は神社で勝負だ!いつもの公園は中学生がたくさん居たから遊べないんだよ〜」

 (神社だと…じゃあこの夢は)

 「うげぇ、ならしょうがないか!でもあそこの神社、今日は近寄るなって先生が言ってなかったっけ?」

 「そうだっけ?まあ良いじゃん!公園行っても遊べないし、遊びに行ける場所、そこしか残ってないんだもん」

 呑気に話しながら神社に向かう子供達はこれから真琴が居なくなることなんて想像もつかなかっただろう。学校から帰ってきては毎日遊んでいたのだから、今日もいつも通り遊んで帰るだけだった。

 「じゃあ今日も俺が鬼な!十数えるからみんな隠れろよ!」

 大樹に顔を向け目を瞑り数を数え始める。一人は木の後ろ、一人は階段下、神社の鳥居から出ない範囲で隠れていた。そんな中真琴は、神社の裏手に来ていた。

 「ここら変なら見つかりにくいかな…これは?」

 少し進んだ所に空間が歪んで渦巻いている。真琴はそれに引き寄せられるように近づき、触れてしまった。その瞬間光が強くなり、真琴を包み込み消えてしまった。

 「おいおいおい誰か中に入って行ったぞ!?」

 (…田中さん?)

 「こんな見つかりやすい所に入口設置するからだ馬鹿者」

 (佐藤さんまで?)

 田中の頭を思いっきり殴って睨みつけていた。

 「さっさと追うぞ」

 「今日ここで遊びそうな子達には注意したのに来たんだよ?まさか弟の方が中に入っちまうなんて思わんやろ!」

 田中は手を前に出し空間を作り、二人が急いで中へと入っていくと何もなかったかのように静かになった。その直ぐ後に高橋がこの近くを通って行ったが何も起こらず帰る頃になっても見つからないことに焦り両親に伝えると、父には直ぐに警察に連絡し、勢いよく飛び出していきそうな母の腕を掴み必死に止めていた。

 警察が到着して、事情を説明しているときに母親が神社へと走って向かってしまった。高橋は父親に連絡を受けた祖父母と共に家に残り、両親の帰りを待つことになった。

 深夜、父に支えられながら帰って来た母は高橋を見るなり目の前で泣き崩れた。

 「お前が、私がお前と遊ばせていたせいで私達の可愛い真琴が居なくなってしまった!今日、お前が外に遊びに連れ出していなければ、行方不明になる事はなかったのよ…私が遊ぶことを許していなければ…お前のせいで…!」

 “私のせいで”、“お前のせいで”と繰り返し言い、よろけながら高橋にまたがり首を絞め始める。

 それを抵抗する事なく受け入れる高橋見て驚いた父親は直ぐに止めに入り、母親を勢いよく引離し、高橋を抱いて父親の書斎へ向かう途中、後ろから祖父母の怒鳴り声が聞こた。

 「涼太ごめんな…お母さん、真琴がいなくなってちょっと気が動転してるんだ、落ち着くまでここで本読んでてくれないか?ご飯の時間はお父さんと一緒に食べて、学校に行く時も一緒に行くんだ」

 遠くから声を荒げながら高橋を呼ぶ母の声が聞こえるが父親は高橋の顔を両手で優しく包み目線を合わせる。

 「もう少ししたらおばあちゃん達来てくれるから一緒に本読んでてな」

 高橋が頷いたのを確認してから扉を閉め、母が入ってこれないよう用心のために鍵を閉めていった。

 (そういえば、この後警察に連れて行かれたんだっけ…こんなこともあったな)

 そう思いながら目の前の光景を眺めていたら、だんだんと意識が当のいていき、目が覚めたらベットの上だった。

 「あ、おはようございます」

 「…眩しっ」

 白衣を着た女性が起きた覚したのを確認して思いっきりカーテンを開けた。

 「今佐藤さん呼んでくるのでお待ちください」

 そういうと少し駆け足で部屋を出て行った。鼻歌歌いながら出て行ったから佐藤と対面して話すのが嬉しいんだろう。

 (佐藤さんイケメンだし、みんなから好かれているんだろうな)

 窓の外を眺めていたら扉をノックする音が聞こえ、中に入って来たのは田中と佐藤だった。佐藤は田中が後ろにいる事に気づいていないらしく、田中が口に人差し指を当て悪戯っ子のように悪い顔をしていた。

 「お待たせ、ずいぶん寝てたみたい」

 「どのくらい寝てました?」

 自然と声が出た高橋は自分の喉に手を当て驚いていた。

 「あぁ、寝てる間に声が出せるように処置を施しておいたよ、因みに三日ほど寝ていたよ」

 ニコリと微笑む佐藤は、現世にいた時のような怠そうな様子は面影もなく消えており、まさに好青年の王子様(?)みたいな感じだった。

 「現世であった時とずいぶん印象が違いますね」

 「そうなんだよ、現世に行ったら性格が少し変わっちゃう時があるんだよね」

 本当に厄介だよと眉を顰め呆れていたが、第一印象と真反対で少し混乱が続いていた。

 「田中のことなんだけどね、逸れた土地がちょっと離れてて着くのにまだ時間かかると思うんだ」

 「あの…」

 高橋が後ろにいることを伝えようとした瞬間、田中が「呼んだ?」と耳元で囁いた。その瞬間、佐藤はその場にしゃがみ込み囁かれた方の耳を思いっきり掻いていた。

 「た、田中!毎回毎回耳元で囁くなと良いっているだろう!」

 「なになになに?顔真っ赤にしながら言ってるけど説得力ないぞ〜?」

 してやったりとした顔で佐藤を煽っていた。部屋の外からは「また佐藤が田中の帰還に気づかなかったぞ!これで何回目だよ!」「三桁超えたあたりから数えてねぇ!」「どんだけ気づいてないんだよ」と男性達が大盛り上がりしていた。

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僕は首を切り裂いて死んだ 青山 沙奈 @sana_01

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