第3話

 森林の中にある神社裏の扉から裏世界に迷い込んだ高橋の弟、真琴は神の情けにより裏世界でも心細く無いように家族が与えられた。裏世界の住人のなかで彼を引取りたいと申出があり、その家族に引き取られ何不自由のない生活を送っていた。初めは心を閉ざしていた彼も次第に元気を取り戻し現在では裏世界の住人として生活していた。


 「初めは心配で時間作っては様子を伺いに行ってたのですが次第に現世のことを忘れていく容姿も確認できています、生活している中で問題行動なども一切なかったので様子伺いの訪問は少しずつ減らして、その家族には週に一度の報告をしてもらうだけにして貰いました」

 (忘れしまったのは悲しいですが、裏世界に徐々に馴染んで行ったのは安心しました)

 高橋は少し寂しそうな表情をしていたが何事もなく暮らしていたことに安堵し、複雑な気持ちになっていた。

「私達も元気に育つ様子を見てもう訪問する必要はないと判断したのが裏世界に来て五年後のことでした」

 

 裏世界には現世と同じく学舎があり、そこに通ってもらい教養を身につけなんの問題もなく職に就き一人暮らししていた。ただ、少し違うところは何十年、何百年と生きている中である一定の年数生きている者たちは性欲が薄れ欠けてしまい忌まわしい行為と認識が変わってく為、生活圏が年数によって区分されている。

 真琴は年齢的にも現世の青年たちと変わらず色恋沙汰もあるわけで、好きな女性ができた。


 「恋愛するのはいいことなのですが…好きになった人がまたかなり年上の方で、仕事の出張で出会ったらしいのですが…ちょっと休憩しませんか?こんなに話したの久しぶりで…」

 「…嘘コケ」

 「ん?」

 話疲れたのか休憩をという田中に何か言いたげな佐藤に圧力がかかる。

 「疲れたならここからは俺が話そう、少し休憩しとけ」

 「…じゃあよろしく、高橋さん、私は少し席を外しますんで話が終わる頃にまた来ます」

 田中がそういうと高橋は頷き、佐藤には話を端的にしすぎるなよという雰囲気を醸し出しながら部屋から出て行った。

 パタンと音を立てて扉が閉まった後しばらく沈黙が続いた。

 (佐藤先生、先ほどの話の続きは…)

 沈黙に耐えかね高橋から話を切り出した。

 「田中は細かいところまで話しすぎる節があってな、一から百ぐらいの勢いで話も脱線する」

 頭をかきながら身体を起こし、やっと高橋の目を見て話し始めた。

 「簡単にいうと高橋弟の恋愛対象者は数百年生きている人物でな、高橋弟は対象外…何回も告白され迷惑していると報告があった」

 (当時の真琴からは考えられないですが、少し思い当たるふちがあるかも知れません)

 「あぁ、お前さんの両親だろ?後の話に繋がるから今は置いておこう」

 腕を組み、少し考えてる高橋を見て新しいお茶を差し出す。

 (ありがとうございます、因みにこのお茶って…)

 「六堡茶ろっぽちゃ、温かいのが良かったか?」

 (いえ、ただ飲んだことのないお茶だったので…今度仕入れて飲もうかなと)

 「そういうことならいつでも呼んでくれたらいつでも届けるが…」

 取り敢えずとどこから出したのか、茶葉の入った箱を取り出し高橋の前にそっと出した。

 (ありがたい事ですが、そんなこと迷惑になるんじゃ…)

 「お茶以外も飲める?紅茶やコーヒー系は?」

 (基本何でも飲めますし、休みの日は飲み物に合わせて軽食も作りますよ)

 いきなりグイグイくる佐藤に少し困惑する高橋だが、佐藤の印象がいい意味で少し変わったようだ。

 「ほう、この話はまた今度するか…取り敢えず高橋弟のはなしだな」

 今までの興奮が嘘っかのように冷静に話す佐藤の姿を見て高橋も我に帰る。

 (…その報告後の対応などはどういう感じなんですか?)

 「初期報告なた厳重注意だがなんせ毎日のように告白してストーカー被害の報告もあったからカウンセリングを受けてもらって、その裏で教養の見直しも視野に入っているレベルだった」

 (そこまで酷いとは…もう頭の痛い話です)

 実弟の代わりに謝る高橋に気にするなという佐藤は話を続けた。

 「まあ、そのカウンセリングには3回目にはバックれて病院には姿を見せず女性を誘拐、強姦したのが約一ヶ月前だと報告を受けている」

 こんな奴は久々に見たと言いながらため息をついた。

 (その女性はどうなったんですか?)

 「ん?その人はな、転生が決まっていたから転生までの期間が早まって既に裏世界からは居なくなってるよ」

 佐藤はお茶を飲み一息ついた。

 「あの人も裏世界に来て長かったから転生前にこんな事になって怒ってたから、ちゃっちゃと転生に応じてくれて助かったよ」

 (多分対応が面倒くさかったんだな…女性の方も転生できてよかったです、ただ真琴の兄てして謝罪ができなかったのが心残りですが…)

 「あいつの家族はもう裏世界の者だけだから高橋が気に病む事ないよ、正直あの人も今回の事件に巻き込もれてもケロッとしてたし、なんんら今回の事件で転生早めろと詰め寄って来た位だから全然気にしてないよ、断言できるわ」

 お菓子を食べながら「あういう人とはもう二度と会いたくない…」とうんざりしていた。はぁ…とため息をついた後次の話に移った。

 「じゃあ次だな…実の話、高橋弟が裏世界に迷い込んだせいで高橋の裏世界移住ができなくなったんだ」

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