第2話

 首月華しゅげっか

 ある世界にて罪人にのみ患う病で、大罪または小罪の数に応じてなる病。助かる手段は無い。首に腫れができ膨れ上がる。その腫れに亀裂が入り首が裂け花が一輪咲く。首皮一枚で繋がっている頭は、頭の重さに耐えきれず皮が千切れ落ちる。腫れに亀裂が入るのは満月の夜で、それが何回目の夜なのかは一定以上の役職についているものにしか分からない。腫れ上がる最中に痛みはなく首にも違和感はないが裂け始めると激痛が走るが不思議と意識が途切れることはなく絶命と判断されても咲いた花を焼き捨てない限り意識は残り続ける。

 研究によると身体は動かず、頭だけになっても意識があり苦しい続ける。それが理性を失っても、条件を満たさないと消えることすらできず永久に彷徨い続ける。首に咲いた花は胴体から引き離しても枯れず、水に晒していなくても枯れる事がないので保存も楽である。


 「これが高橋さんにかかっている病です、先ほどここで惰眠をしている佐藤が言っていた翌月の満月の夜というのは花が咲くということです、話を端折り過ぎてすみません」

 頭を下げ謝る田中に“お気になさらずに”とメモし見せる。

 「高橋、もうメモしなくても伝わるからメモしなくていぞ」

 (どういうことだ?)

 「佐藤先生?私は今、貴方が話を端的に話したのを謝罪したばかりだと言うのにまた説明も無しに…」

 何度目かのため息をしたのち高橋に説明を始めた。

 「この世界のファンタジー小説や漫画などにあるテレパシーと言うべきかな、以心伝心?読心術?」

 (そうなんですね)

 「そうなんです、まあまあ話が長くなるので茶菓子でも食べ飲みしながら続けましょう」

 高橋にとっては深刻な話をしているのだが、田中と佐藤のどこかのんびりとした雰囲気に和みつつあった。

 「首月華のことは話終わったし、次はどうしてこの病が高橋さんにかかったかですね」

 「田中せんせー、話終わったら起こして下さいね」

 「佐藤せんせ〜?貴方と私、性格の入れ替え計画でも企てられましたっけ、あっちではそんなんじゃ無いでしょ?」

 気だるげな佐藤に話しかけるが聞く耳を持たず寝てしまった。

 (大変そうですね…ということは先ほど病室で話されていた病状は表向きということで会っていますか?)

 「はい、そういうことで間違い無いです。」

 (それで、この世界にはない病いと言うことは別世界があるんですね?)

 「そうです、ただ、この世界では知られていない情報ですし一緒に着いて来てもらった方が早いのですが、手続きをしていないので取り敢えずお話だけ…夢物語に聞こえるかも知れないですが聞いてもらえます?」

 田中の真剣な表情に高橋は頷いた。

 「まずどこからお話ししましょうか」


 はじめにこの世界の事を現世と呼び、田中と佐藤の暮らしている世界を裏世界という。裏世界には過去に、様々な理由で裏世界に連れて来られた人たちが不老の力を得て生活している。首月華は裏世界の病で、先ほど話した通り罪を犯したものにかかる病だ。

 (不老ということは不死身では無いということですか?)

 「裏世界では移住する際、好きな年齢代の容姿まで成長できます。その容姿からは一切老いる事はありませんし寿命も半永久的なものなので裏世界の病にかからない限り消える事はありませんが、大罪と小罪の数によって裏世界の神が病を患わせることになっています」

 (寿命は無いけどある一定の条件で裏世界からも消えてしまうということですね)

 「そういうことです、大罪・小罪は痛みを伴います、罪の大きさ関係なく痛みは一緒ですが、今回は神の設定ミスにより肉親である高橋さんに的が当たったわけです」

 肉親と聞き不思議に思った高橋は田中に聞いた。

 (肉親と言いましたが僕には両親、祖父母は他界してますし、弟は幼少の頃に行方知れずで今は僕一人なのですが…まさか弟が生きているというのですか?)

 高橋には四つ下に弟が居て、弟は七歳の頃森林にある神社で友達と遊んでいる中で行方がわからなくなった。その後は母が体調を崩し父は仕事に手が付かずリストラに合い、気づけば両親仲良く自殺していた。

 「高橋さんの弟、真琴さんは行方不明になった原因が裏世界に迷い込んだからなんです」

 田中が高橋を申し訳なさそうに見ながら言った。

 「当時、裏世界と現世を繋ぐ扉を人気の無い森林の中の神社裏に配置していました、その時に偶然迷い込んだ真琴さんは裏世界の決定事項により現世に返せなかったのでそのまま住んでもらうことになりました」

 裏世界には決定事項が設けられている。今回の件では“現世の者が裏世界の役職付きの者と同行していない場合、現世に戻る事は許されない。例え故意でなくても記憶に残ってしまう為戻す事はできない。”という項目に引っかかったため、現世で行方不明扱いになっている。

 (生きていることが分かっただけでもよかったです、ところで弟の罪についてお伺いしても?)

 「はい、その件に着いてもお話ししようと思ってました、彼は一人の女性に恋をしその後失恋、ストーカー行為と強姦です」

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