僕は首を切り裂いて死んだ

青山 沙奈

第1話

 「恐らく機能性発声障害ですね、なんらかのストレスを感じているのかもしれませんただ…」

 朝起きたら声が出なくなっていて、午前休を取り病院へ来ていた。

 「首の腫れ物ですが、レントゲンには何も写っていないんですよ」

 “おかしくないですか?パッと見た感じでも腫れてるのに気づきますよね?”

 先生の話を聞いてすぐに打ち込めるよう準備していたメモアプリに打ち込んだ。家を出る際、鏡に映った際に首が腫れたことに気づいたので、こちらも診てもらう事になったのだ。

 「確かにおかしいんだけどね、レントゲンに写らない以上炎症なのかも不明だしそれにあった薬を処方出来ないんです、取り敢えず私の知り合いにそういう不可思議な症状を研究している友人がいるからそっちを紹介しますね、今日丁度うちに用事があるみたいでもう少ししたら来る筈だから私と一緒に来てくれますか?」

 “急に言われても私は午後から会社に行かなといけないので別日にお願いしたいのですが、日程など大丈夫でしょうか?”

 今朝、上司に午前休を頂きたいと連絡入れただけでも渋々了承を得たのであまり休みたくはない。

「んー、そういえば今日ウチの病院に寄ったらすぐ海外出張だっていってたから難しいかな…二、三ヶ月は帰ってこないと思うよ?会社に言いずらいなら私から伝えておきますよ」

 先生がそういった後、隣にいた看護師に手書きのメモを渡し下がらせた。その間にメモしたことを先生に見せようとした時、先生が先に話しかけてきた。

 「まあ、彼の場合は九割型旅行ですけどね、まあそんなことはいいんですよ、それよりもメールでのやり取りだと上司の方も気付かないかもしれないので、やはり私が連絡入れておきますね。後からメールに気づかなかったとか言われるのも面倒なので」

 最後の言葉は本音なのだろう。少しため息混じりに聞こえた気がするが先生の表情からは何を考えているのかはわからなかった。

 “お言葉に甘えてお願いします。上司はそういう手口の常習犯なので助かります。”

 そう見せるとニコニコしながら頷いていた。

 「じゃあ、後で連絡しておくから取り敢えず場所変えようか」

 そう言われ案内されたのは関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉でそこを通りえレベーターに乗り込むと‘B2’のボタンを押した。この病院には地下なんて存在しないはずなのに存在している。そこには触れてはいけないのだろうと思い、スルーする事にした。

 「高橋さんは声が出なくなる前はなんか変わったことはありました?例えば“なんかわかんないけどだるいな〜”とか“会社行きたくないな〜”とか逆に“今日は調子が良すぎるくらい体力にも自信があるな〜”とか」

 “そんなことはなくいつも通りでした。”

 診察の時に聞けば良かった事を今になって聞いてくるのは少し不思議だけど聞かれた質問には素直に答えた。

 「そうか…じゃあ尚更私の知り合いに会っておいて損はないですね」

 先生の言葉に疑問が残ったけれど地下二階につき一番奥の部屋に通された。室内にはローテーブルに座椅子が四つ、テーブルには菓子が並んでいて伏せて寝ている男性がいた。

 「佐藤先生〜、さっき連絡あったと思うけど見た?見てないよね〜もう連れてきちゃったからカウンセリングよろしくね?ちょっと起きてる?」

 佐藤先生と呼ばれたその人は無反応で、痺れを切らせた先生が頭を叩いて起こしていた。それでも起きない先生を見て肩捕まえて大きく揺らしていた。

 “お疲れなんですか?”

 先生の肩をたたきメモを見せる。

 「ん?佐藤先生はただ眠たいだけ何ですよ、ほら出張最後の大仕事ですよ〜!これ終わったら寝れるから起きて下さいよ〜終わったらプリン奢るからね?お願いだから起きて?そろそろキレそう」

 ニコニコと笑ながら佐藤先生の胸ぐらを掴み語りかけている目は見開いていて笑っていなかった…ちょっと怖い。

 「起きてる起きてる…首もげるからそんな揺らさないでよ、そして面白い顔しないで田中」

 面白いの一言で済ませちゃうこの人も恐ろしい。

 「えっと、高橋…あ〜下の名前は?」

 「涼太だよ、さっきメモ届いたでしょう!まさか見てないの!?後、田中先生な」

 「届いたよ?見てないけど聞いてはいた、まあこっちの病ではないよね」

 “こっちとはどういうことですか?”

 佐藤はテーブルにあったお菓子を頬張りながら話し始め、行儀悪いと言われていたが完全スルーを決め込むみたいだ。

 「病名は首月華しゅげっか、この調子だと翌月の満月の夜には花開くかな〜」

 佐藤は自分の首元に指を当て少し笑いながら高橋を見ていた。

 “その病気は治るのでしょうか”

 「無理だね、そもそもこの世界では存在しない病だからだ、それに…」

 (この世界?何の話をしているのかわからない…そもそもこの空間もなんか次元が違うような)

 永遠と話を続けようとしている佐藤に田中が止めに入る。

 「佐藤先生、中途半端に話すぎだよ」

 「一から説明するの面倒臭いんだよ、もう田中が話せば?」

 眠たそうに話す佐藤は全説明を田中に任せ再び菓子を頬張る。

 「結局かよ!まあそうだろうと思ったよ」

 はあ…とため息をつき高橋に座るよう促した。

 「取り敢えず、その病気の事から話そうかな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る