第14話 ヤバイ、風紀委員のおでましだ

 翌朝、私とあまめは食堂で朝ごはんを食べる事にした。


 ナチュルはモーニングルーティンの散歩を済ませてから食べるとのこと。


 向かう前に身支度を済ませた。


 寮以外の敷地内では私服は禁じられているからだ。


 恐らくいつどこで誰が見ても理想像を崩さないようにするための訓練の一貫なのだろう。


 アイドル候補生達の生徒は制服を着て食堂に向かう中、寝間着の格好をした生徒もチラホラいた。


 そういう子達は慌てて寮に戻っていった。



「あまめちゃんは何たべる?」


 私は食堂の前にあるメニューボードを見ながら聞いた。


 この食堂のモーニングはABCの三種類あって、Aは『パン』、Bは『ご飯』、Cは『麺』だった。


「えーと、パンはフルーツ山盛りフレンチトースト、ご飯はタコライス、麺は広東麺かんとんめん……なかなか朝からボリュームあるね」

「だね。うーん、何しようかな」


 二人で何を食べようか悩んでいると、ナチュルがやってきた。


 ジョギングして直行で戻ってきたからか、ジャージだった。


「あ、ナチュルさん。えっと……」

「ナチュル、何たべる?」


 私が服装の事を言おうとしたが、あまめがメニューボードを指差して聞いてきたので、言いそびれてしまった。


「えっと……私はフレンチトーストがいいです」

「じゃあ、私はタコライス! モブ子ちゃんは?」

「え? あ、うーんと……広東麺で」

「いいね! 三人違うのを食べればシェアできるし!」

「そうですね! 一石二鳥ならぬ三鳥ですね!」

「くわっ、くわっ、くわ〜!」

「ふふふ、あまめちゃんのお茶目さん」


 あまめとナチュルは大盛り上がりしていたが、私は周りからの視線が気になっていた。


 特にナチュルのジャージ姿をもし風紀委員とかに見られたら……。


「ナチュルさん」


 すると、思わず背筋が伸びてしまうくらい鞭で打たれたかのような声が聞こえた。


 声のした方を見ると、三角形の眼鏡をかけたトゲ頭が特徴の風紀委員――鞭影むちかげひやめが睨んでいた。


「む、鞭影むちかげさん! おはようございます!」


 私は姿勢正しくして挨拶した。


 私達より一つ上の先輩は三角形のレンズ越しからでも分かるくらい眼を鋭くさせて、ナチュルの格好をジロジロ見ていた。


「あなた、その格好は何ですか? アイドル候補生として如何なる時でも身だしなみは……」

「でも、着替えてたら朝ごはん間に合いませんよ」


 ナチュルは彼女の恐ろしさを知らないからか、堂々と反論を述べた。


 これに周囲にいた生徒達はざわついていた。


「……ほう、私に口答え……」

「あの、あなたも早く決めた方がいいですよ。朝礼が始まっちゃいます。では、失礼します」


 ナチュルはペコリと頭を下げて食堂の中に入っていった。


 あまめも「えっと、誰だか分からないけど、あまりに人の格好にとやかく言わないほうがいいよ」と無知ゆえの指摘をして、ナチュルの後を追った。


 私は震えが止まらなかった。周りも顔を青ざめていた。


 肝心の本人はというと、凍ったかのようにフリーズした後、レンズが勝手に割れ出した。


「ふ……」


 すると、彼女の身体が上下にガタガタ揺れていた。


「風紀委員に対して何たる口のきき方! 根っから指導してやらァ!!」


 鞭影むちかげの三角形のレンズが粉々に砕け、猛獣みたいな雄叫びを上げながら中に入っていった。


 阿鼻叫喚の地獄絵図になってしまうのか――と思ったが、すぐに収まった。


 割烹着をきた少女が目を回している鞭影むちかげ風紀委員を抱えていた。


「食事中、暴れるの禁止」


 少女はそう言って、風紀委員を放り投げた。



明日へつづく

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