第10話 恐ろしき声
「どうしようもないの?」
『うん。二人を殺すか、自害しない限り』
殺人か身投げ――最悪な選択肢に私の背筋は凍った。
「ひ、人殺しなんてしたくないよ!」
『じゃあ、飛び降りて』
私の視線は自然と屋上の手摺りに目が行った。
吸い寄せられるように近づいて、よじ登った。
風が唸っている。
下を見ると校庭には誰もいなかった。
このまま飛べば私は――いや、でも、そしたらあまめとナチュルにはもう会えない。
アイドルの道が絶たれるという事だ。
そんなの……そんなの……。
『何をためらっているんだい。君はアイドルよりも鳥が相応しいんだ。さぁ、自分が鳥になって羽ばたいてみて。今までの人生よりも濃い体験ができると思うから』
声の言葉に私は覚悟を決めた。少し助走をつけて羽ばたいた。
あぁ、身体が軽くなっていく。私は鳥になったんだ。
自由になったんだ――そう思った瞬間。
「モブ子ちゃーーーん!!!」
私を呼ぶ声がした。しかし、次第に遠のいていった。
たぶんあまめだろう。助けに来たかもしれないけど、もう手遅れ。
私は地面に激突――になるかと思ったが、突然柔らかいクッションみたいなものに包まれたかのような感触がした。
ゆっくり目を開けてみると、あまめとナチュルが泣き出しそうな顔をして私を見ていた。
「モブ子ちゃん! よかった。無事で……」
ナチュルが目元を拭っていた。まだ会ったばかりだというのに、私が助かった事を泣くほど喜ぶなんて――本当にピュアだね。
「どうしてあんな事をしたの……?」
あまめの顔がグシャグシャになっていた。私は「あの、えっと……」とモゴモゴしながら不思議な声の事について話した。
「……なるほどね」
あまめは何か心当たりがあるのか、険しい顔をしてどこかに行ってしまった。
「あまめちゃん?!」
ナチュルが悲鳴にも近い声を上げて引き留めようとするが、あまめは「モブ子ちゃんを頼んだ」と言って走ってしまった。
「あまめちゃんはどこへ……?」
そう尋ねると、ナチュルは「私にも分かりません。ただ嫌な予感がします」と不安そうな表情をして答えた。
嫌な予感――もしかしてあの声の主を探すつもりなのだろうか。
「助けにいかないと!」
私は立ち上がって、あまめの後を追いかけた。
「待ってくださーーい!!」
ナチュルも一緒に付いて行くと言われたので、二人で彼女を探す事にした。
さすがに手ぶらだと危ないので、落ちていた木の棒を持って行く事にした。
※
「あまめちゃーーーん!!」
私は大声を上げて探した。
「どこにいるんですかーー?」
ナチュルも同様に声を上げた。
たぶんこの学園からは出ていないはず。
ここは都会から離れた山の中にある学園。
街に行くにしても、バスで数時間はかかってしまう。
もし抜け出しているのなら絶望しかないけど。
「どこに行っちゃったんだろう……あれ?」
私はナチュルが目を閉じて祈るポーズをしている事に気づいた。
明日へつづく
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