第9話 向いてないんだ
激しいレッスンが終わり、下校の時間になった。
とはいっても、家に帰る訳ではない。
この学園は寮制で、全学年と先生が寝泊まりしている。
だから、皆揃って寮の方に向かっていた。
和気藹々と楽しんでいる声が聞こえる中、私は黙々と帰宅準備をしていた。
「モブ子ちゃん、一緒に寮まで案内してくれない?」
あまめの誘いに私は「いいよ」と承諾した。
※
あまめとナチュルは久しぶりの再会だからか、積りに積もった話をして盛り上がっていた。
私は無言で寮へ続く廊下を進んでいく。
「ここだよ」
私は寮を指差して言った。
まるで高層マンションみたいな高い建物に二人とも驚いていた。
「凄い……これ、全部寮なんですか?」
「うーんと、最上階は学園長の部屋で、そこから下は先生、三年生と続いて、一年生は一番下だよ」
説明しながら部屋へと一年生がいる部屋へと向かう。
ドア越しでも分かるくらい大盛り上がりをしている部屋を通り過ぎ、一番奥の部屋で止まった。
誰の部屋なのかが分かる札がぶら下がっていて、私とあまめとナチュルの名前が記されていた。
鍵を開けて中に入ると、そこそこ広めな部屋に二段ベッドが二つ置かれていた。
すでに二人の荷物が入ってるからか、さらに狭く感じた。
「わぁーーー!! 広ーーい!!」
「快適ですね!」
二人はこれでも充分過ぎるくらい素晴らしいのか、子供みたいにはしゃいでいた。
「ねぇねぇ、みんなでトランプして遊ばない?」
あまめが修学旅行気分な雰囲気でトランプを取り出すと、ナチュルは「いいですね! 十回戦勝負と行きましょう!」とやる気満々だった。
「モブ子ちゃんも一緒に……」
「ごめん。私、ダンスの練習があるから、二人でやって」
私は付け離すように断ってしまった。あまめは「そっか……」と寂しそうな顔をしていた。
その切ない表情に心臓が掴まれたかのように痛くなってしまったので、私は逃げるように部屋を出た。
※
校舎の屋上に向かって、一人で先生に指摘された箇所を何度も練習した。
録画して見返しても、お手本のようにはうまくいかなかった。
「はぁ」
私は溜め息をついて、その場に座ってしまった。
「……私、才能がないのかな」
『そうだよ』
すると、突然全然知らないけど声が頭の中に響くように聞こえてきた。
立ち上がって辺りを見渡しても、誰もいないかった。
「気のせいか……」
そう思ったが、『お前は嫌われているんだ』とまた声が聞こえた。
「だ、誰なの?!」
『僕は真実さ。君のその鬱屈とした感情は的中している。君には踊りも歌の才能もないし、みんなから足手まといにされている』
「やめて!」
私は耳を塞いでしまった。
あんなに嫌な言葉を聞くのは中学生ぶりだろうか。
しかし、声は塞いで貫くように聞こえてきた。
『君はアイドルにはなれない。夢美あまめとナチュルがいる限り、永遠に』
「そんな……」
私の心は絶望に染まった。
明日へつづく
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