第8話 あの二人、凄い……。

 どうにかホームルームを終えた私は急いでスタジオの方へ向かった。


「どこへ行かれるんですか?」


 ナチュルが初対面なのにまるで友達にでも話しかけるような言い方で聞いてきた。


「えっと、スタジオだよ。今日はダンスのレッスンがあるんだ」

「そうなんですね! 私も付いて行っていいですか?!」

「え?」


 この子もあまめと同じく距離が近い感じで接してくるのか。


 ナチュルに乗るかのように、あまめも「私も行くー!」と手を上げていた。


 うーん、どうしよう。駄目だって言われても付いて来そうな気がするし……別にいっか。


「いいよ。行こう」


 私が承諾すると、二人とも嬉しそうに飛び跳ねていた。



 この学園『ドキ女』はアイドルを目指す人達が多い。


 だから、授業のカリキュラムの中にアイドル育成に必要な歌やダンスのレッスンなどが含まれている。


 さらにそれだけではなく、放課後にもアイドルに一歩近づけるためにレッスンの復習や応用の講習がある。


 全校生徒のほとんどがそれに応募しているので、実質七時間目の授業といってもいいかもしれない。


 校舎、体育館、学生寮とは別にダンスや歌のスタジオ専門の施設がある。


 そこで一年から三年生まで各々に合ったレッスンをしている。


 私を含めた一年生は基本をしっかり頭と身体に叩き込んだ。


「はい、ワンツー、ワンツー、ちょっと山田さん、遅れているわよ」


 厳しめの先生に叱責させながら頑張って踊った。


 皆はこの学園に入る前は多少のダンスや歌の経験をしている人が多く、辛い顔をしても先生からの厳しい課題をこなしていた。


 対して、まともに経験していない私は追いつくのもしんどかった。


「先生、私もいいですか?」


 すると、見学をしていたあまめとナチュルが参加を希望した。


 先生は「うーん……まぁ、いいわ。自分で言うのだから多少はできるんでしょうね」とあまり期待していないような言い方をして許可した。


 あまめとナチュルも加わり、音楽が鳴った。


 その瞬間、スタジオが一変した。


 なぜか森林にいるような香りが漂い、二人は音色と一体化するかのように、時にしなやかに、時に躍動的に踊っていた。


 鮮やかな舞いに先生も含めレッスンを受けていた生徒達も見惚れていた。


 音楽が終わると、拍手喝采だった。


「あなた達……その実力ならきっとアイドルになれるわよ!」


 あの辛口で有名な先生が絶賛するくらい感動的な踊りだったのだろう。


 あまめもナチュルも嬉しそうに拍手に応じていた。


(まるで舞台役者だ)


 私は二人が舞台に立っているかのように見えた。


(それに比べて私は……)


 彼女達の圧倒的な実力を見せつけられた私は自分の力不足に酷く劣等感を抱いた。


 気のせいか、耳に『シシシシ』と笑っている声が聞こえてきた。



明日へつづく

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