第3話 あなたの運動神経どうなっているの?

 私とあまめは横並びで廊下を歩いていった。

 

 通り過ぎていく生徒達が彼女を見てヒソヒソと話していた。


「ねぇ、あまめさん」

「『ちゃん』でいいよ。モブ子ちゃん」


 お、おぉ……やっぱり距離が近い。これは……素直に従った方が話が早いかな。


「えっと、あまめ……ちゃん」

「なに、モブ子ちゃん」

「どうして私と一緒にトイレに行こうと思ったの?」

「え? だって……私達、友達でしょ? 友達は一緒にトイレに行くもんじゃないの?」


 キョトンとした顔で私を見つめてくる。


 その瞳があまりにも綺麗だったので、この子は嘘をついていないなと思った。


 でも、トイレに一緒に付いていくのは友達の役割なのだろうか。


 長年ボッチだったから分かんないや。


「きゃぁああああああ!!!!」


 突然どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。


 たちまち廊下がさらに騒がしくなった。


「今の叫び声は……」

「外からだ!」


 あまめは急に顔色を変えて走り出した。


「え? ちょっとあまめちゃん?!」


 私は追いかけようか迷ったが、あの叫び声も気になるので、なけなしの体力で追いかけた。



 息も絶え絶えに校庭に向かうと、人が集まっていた。


 皆、見上げていた。

 

 あまめもすでに駆けつけていて、睨むように顔を上げていた。


「はぁ……はぁ……どうしたの?」

「……あれ」


 あまめが指差す方向を見ると、屋上に誰か立っていた。


 人だ。手すりの外側にいるという事は……。


「まさか飛び降り?!」


 空いた口がふさがらなかった。まさかこの学園でそのような事がおきるなんて思っても見なかったからだ。


 すると、ドタドタと先生達がやってきた。


 おかっぱ頭の先生こと入隅崎いすみざきまつり先生が拡声器を持ってきた。


「馬鹿な真似はやめてーーー!!! 早まるなーーーー!!!」


 先生、たぶんそこで叫んでいるよりも屋上に駆け上がった方が早いのでは?


 私がそう思っていると、屋上にいる生徒が「もうウンザリなのよーーー!!!」と叫んだ。


「私は! このまま! アイドルに! なれないの!」

「そんなことなーーーい!!!」


 入隅崎いすみざき先生が拡声器を放り投げて叫んだ。


 拡声器なくても声張れるじゃん。


「ほ、ほら……ちゃんと教えてあげるから……その……」


 両眼が全部隠れている先生こと花園はなぞの妃蓮ひれんがボソボソと言っていた。


 だから、ここじゃなくて屋上むこうに行った方が絶対にいいって。


 そう思っていると、生徒が前屈みになった。


 アッと叫ぶ先生。悲鳴を上げる生徒達。


 すると、人たがりの中を飛び抜けるようにジャンプしている生徒がいた。


 あまめだった。


 彼女は群衆の前に着地すると、全速力で校舎の方に駆けていった。


「間に合えぇえええええ!!!」


 あまめは叫びながら校舎を駆け上がっていった。ロープもハシゴも使わずに両脚だけで駆け上がるなんて――どんな脚力しているんだ。


 私は彼女の身体能力に目を見張ったが、生徒は吸い込まれるように落ちていく。


 あまめと生徒との距離は少し離れていた。


「とうっ!」


 彼女はジャンプして生徒を受け止めると、お姫様だっこしたまま着地した。


 周りにいる人達は彼女の救出劇に驚いたが、急いで生徒の方へ駆け寄ってきた。


 もちろん先生達も生徒の様態を心配していた。


「怪我は?」

「気絶しているだけです。保健室で休ませれば大丈夫だと思います」


 あまめがニコッと微笑むと、花園はなぞの先生が「良かったぁ〜〜〜!!!」と大きな声を上げて泣いていた。


 あまめは私の方を見ると「モブ子ちゃん、保健室はどっち?」と聞いてきた。


「え? えっと……案内するよ」


 口で説明するより連れて行った方が早いので、私は彼女の方へ駆け寄って案内しようとした。


「……え?」


 遠くからだったからあまり見えなかったが、彼女が抱きかかえている生徒に見覚えがあった。


 彼女は松阪まつさか玲奈れいな――生徒会の副委員長をしている人だ。



明日へつづく

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