第2話 距離感近すぎでしょ

 どうにか先生を起こした私は無事に朝のホームルームを終えることができた。


 次の授業の準備をするために、引き出しから教科書を出していた。


「へぇー、あまめちゃん。海外にも行ったことあるのーー?」


 同級生達の騒がしい声が聞こえてきた。


 チラッと見てみると、ほぼ全員があまめの席を取り囲んでいた。


 人数が多すぎて彼女の姿が全く見えなかった。


 そりゃあ、あんな魅力的で可愛い子がいたら、誰だって友達になりたいよね。


 そういえば、私、さっき彼女と友達になったような――いや、気のせいか。


 だって、こんなモブ臭が凄まじいくらい漂っている私があんなキラキラガールと友達なんて出来る訳ないよね。


 たぶん彼女の圧倒的なオーラにやられて幻を見たんだ、うん。


「おい、モブ野郎」


 すると、背後から私の総称を酷く汚れた感じに変換したように呼ばれた。

 

 振り返ると、アホ毛の子が睨んでいた。


 坂道さかみちメジナだ。


「なぁ、モブ野郎。教科書忘れたから、それよこせ」

「え?」


 私は彼女の手元を見た。


 次の授業に使う歴史の教科書をしっかり落とさないように抱えていた。


「その手に持っているのじゃ駄目なの?」


 私が指摘すると、彼女は「あっ!」と慌てて教科書を放り投げた後、「たった今、無くなったから……よ、よこせ!」と再度要求してきた。


 いや、さすがに目の前で棄てるのを見せてから寄越せはないと思うけど。


「ちょっと、あなた。何をしているの?!」


 すると、人混みの中からあまめが顔を出してきた。


「な、なによ!」


 メジナは彼女を睨むと、あまめは「私の友達に何か意地悪なことしてない?」と負けじと大きい瞳で圧力をかけた。


「む、むぅ……」


 さすがの彼女もあまめの眼力には勝てないのか、何も言い返せずに床に落ちた教科書を拾って自分の席に戻った。


「あ、ありがとう」


 私はお礼を言うと、あまめは「どういたしまして! モブ子ちゃん!」と失明するかと思うぐらい輝かしい笑顔を見せた。


(ま、眩すぎる……)


 これ以上彼女の笑顔を見たら身体に悪くなりそうなので、いつも通り授業の準備に取り掛かった。


「次は日本史?」


 すると、またしてもあまめが話しかけてきた。


「あ、う、うん」

「今、どんな感じの勉強をしているの?」

「えーと、うーんと、平安時代かな」

「へぇー、そうなんだ」


 何なのこの人。モブの私に積極的にコミュニケーションをはかろうとしてくる。


 あぁ、周りの視線が痛い。


「ちょ、ちょっと、お手洗いへ……」


 この気まず過ぎる空気に耐えられなくなった私は席を立って、そそくさと教室を出た。


 ふぅ、これで一安心できる――そう思っていたけど。


「私も行くーーー!!!」


 なぜかあまめも付いてくる事になった。



明日へつづく

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