第1話 非日常に現れた圧倒的ヒロイン感の転校生

 ごく普通の女の子。それが私、山田モブ子、十六歳。


 だけど、そんな日常をガラリと変えてくれたのはメチャモテキラリミラクルキュルルンユメドキドキ女学園。


 略して『ドキ女』。もうめんどいからそうやって呼んでいる。


 この学園が私の日常を非日常に変えてくれた。


 先輩も同級生も先生も癖者だらけだけど、それも楽しい。


 だけど、ある転校生が私の非日常をさらに濃くなっていくのだった。



 彼女が来る十分前までさかのぼる。


 私はいつも通りに自分のクラス『1-ニンジン』に向かっていた。


「ちょっと、そこのモブ」

 

 あぁ、聞こえてきたいつもの声が。


 私は「何でしょうか〜?」と穏やかに振り返ると、パイナップル髪の三人組が私を睨んでいた。


 左側から順番に南ナミ、南ナナミ、南ミナミの三つ子姉妹だ。


 一つ上の先輩で、名前も髪型も似ているから私は心の中で色と名前を合わさった形で呼んでいる。


「なに? じゃないわよ。あれは持ってきたの?」と手を差し出すブルーナナミ。


「あ、はい。持ってきてます」


 私はカバンからコッペパンを三つ取り出した。


「ラズベリー、ミルク、宇治抹茶の三つです」

「ごくろう。モブ」


 イエローミナミはサッと受け取ると、自分はミルクを選んで残りを二人に渡した。


「ありがと……はぐはぁ?!」


 すると、突然ピンクナミが吐血するぐらい悲鳴を上げた。


「ナナミ?!」

「まさか、あなた。ナナミに毒を……」

「いやいや、違いますから!」


 あらぬ疑いを掛けられそうになったが、ピンクナミが「何か来るわ」と震えていた。


 すると、時差でブルーナナミとイエローミナミが彼女と同じく吐血するぐらい叫んだ。


「私も感じるわ」

「私達に負けず劣らずのオーラを感じる……負けず劣らずの……」


 オーラ? 一体何の事だろう。


 確かに何かパイナップル三つ子の向こう側からただならぬ気配が接近しているなとは思ったけど……。


――キーンコーン、カーンコーン


 そう思った時、廊下からチャイムが鳴り響いた。


 あ、やべ。奴がくる。


「ま、まずい!」

「早く席に着かないと!」

「じゃあ、モブ! またお昼もよろしくね〜〜!!」


 彼女達もチャイムを聞いた瞬間、真っ青な顔をして二階へ向かっていた。


 私も急いで教室に戻らないと、学生指導員の人にぶちのめされる。


 そう思って走ろうとした瞬間、目の前に人がいたらしくドンッとぶつかってしまった。


「きゃっ!」


 尻もちをついてしまう私。


「大丈夫?」


 聴覚だけでも分かるくらい可愛い声が手を差し伸べてきた。

 私は彼女の手を握り、立ち上がった。


「あ、ありがとぶべらばっ!!」


 しかし、その人を見た瞬間、血をぶちまけるくらい衝撃を受けた。


 その子は肩ぐらいまで伸びたツインテールが魅力的の女の子だった。


 見た目はパーフェクトだが、目だけでは分からないくらいオーラが凄かった。


 パイナップル三つ子が震えていたのは彼女のことだったのだろう。


「だ、大丈夫?! 口から血が出ているけど?!」


 彼女は私を保健室へ連れて行こうとしたが、その前に教室に行かなければならなかったので、別れを告げて行った。



夢美ゆめみあまめです! みんな、よろしくね♡」


 彼女がウインクした瞬間、私以外の生徒や先生が卒倒そっとうしてしまった。


 私は目玉が飛び出そうになった。


 まさかぶつかった子が転校生で、しかもこのクラスの生徒だなんて。


「あっちゃー、ちょっとやり過ぎちゃったかな」


 あまめは舌をチロッと出して、反省しているのかしていないのか、分からない顔をしていた。


(そりゃあ、あんな可愛いウインクされたら誰だって気絶するよ)


 そう思っていると、あまめと目があった。


 色んな意味でドキッとした。


「あれ? あの子だけウインクきいてない……」


 あまめは瞬きすると、華麗な足取りで私の隅っこの席まで近づいてきた。


 彼女から漂うオーラに咳き込んでしまった。


「大丈夫?」


 あまめは心配そうな顔で私を見ていたが、さっきの廊下での出来事を思い出したらしく、「あなたはさっきの」と瞬きしていた。


「や、山田モブ子です……」

「モブ子ちゃん! いい名前ね! 私の名前は……あ、さっき言ったから別にいっか! よろしくね!」


 彼女は太陽と見間違えるくらい笑みを浮かべて握手してきた。


「は、はは……どうも」


 私は恐る恐る差し出すと、あまめは力強く掴んで何度も振り回した。


「今日から私達、友達だね!」

「ともだ……え?! 友達?!」


 そう叫ぶと、彼女は「うん! よろしくね!」ととびきり可愛いスマイルを向けた。


(まさかこんなヒロインみたいな子と友達になれるなんて――この学園に入って本当に良かった)


 心の中で、新たな出会いに喜ぶ私。


 だけど、この時は知るよりもなかった。


 この出会いが、私の非日常がさらに濃くなる超非日常の始まりだと……。


 あれ? これ、冒頭で言ってなかったっけ。


 まぁ、いっか。



明日につづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る