第21話 右大臣家の姫君、月子姫
「まぁ、なんと美しいのでしょうか」
想像したことがないと言ったらうそになる。
美しい着物に袖を通し、お姫様たちや普通の女の子たちのように誰かに見初められ、文をもらえたらどんなに幸せなことだろうか。
あるはずもない未来を想像しては苦笑する。
ずっとそんなことに慣れていたけど、初めて着せてもらった女性用の着物はとても嬉しかった。
勝手に入り込んでこうして衣装まで借りてよかったのだろうかと心配にはなってくるが艶やかな黒髪のカツラも装着してもらい、誰のものなのか想像する余裕もなく、思った以上に胸がはずんでいた。
「月子姫さまがいらっしゃいます」
(え……)
白藤さまが呼んでくださったというのだろうか。
そんな突然……と驚かされる。
普段は一切存在すらも認識することが叶わなかったお方がすぐそばまでやってきているという事実が信じられなかった。
光陽さまの筒井筒で文を送りたいと願う相手で隼が体を張って守っているお姫様だ。
どんなお方なのか、とても気になってはいた。
「入ります」
穏やかなお声だった。
振り返るとそこには扇で顔を隠した圧倒的な存在感のお姫様が立っていた。
深窓の姫君だと聞いていたから勝手に小柄で儚い印象のお方なのだろうと思った。
だけど、彼女は違う。
背は高く、扇の下からでも隠しきれていない華やかな様子に空いた口が塞がらない。
天女がいたらこういう人のことを言うのだろう。
目を奪われて離せなかった。
「まぁ、よくお似合いですこと」
入ってくるなり彼女はそう口にして、自然なそぶりでわたしの前に腰を下ろす。
あまりにも……あまりにも美しい所作で見入ってしまう。
「はじめまして。右大臣家の第二姫、月子でございます」
「は、はじめまして。わ、わたくし……つ、月子姫さまの筒井筒の光陽さまの使いの者で、翡翠と申します」
「ええ。いつもきてくださっていたのに、なかなかお会いできずに申し訳ございませんでした」
「い、いえいえ、そんな……みなが平等に決めて守っていることですから」
月子姫に会えるのは、その護衛を倒してから。
あんなそびえる壁を超える人間がいるのかと見てみたいものだけど、彼女の意中の相手さえも近づくことはできないのではないかと思えるが、彼女が決めたことだ。仕方がない。
「むしろこうしてお会いできたことが恐れ多いくらいです」
さらにはお召し物まで貸してもらって、至れり尽くせりである。
「あなたとは一度、お話をしてみたいと思っていたのよ」
「わたしと?」
ふふ、と月子姫が笑う。
その柔らかな雰囲気は誰かと重なって見えた。
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