第4話 バンドの目標

 無事にバンド名も決まり、安心していると


「由那、このバンドの趣旨話したの?」


「あ、忘れてた」


 バンドの趣旨? 文化祭の有志発表に出るだけだと思っていると、


「このバンドの目標は・・・」

と一条さんが話し始めた。


「後夜祭に出場すること!」


 我が、栄開高校は二日間の文化祭を終えた後に生徒だけで行う後夜祭がある。後夜祭では来校者や在校生による投票で有志発表は出れるか出れないかが決まるらしい。


「後夜祭ですか・・・」


「なかなかハードル高いよねー」


 中野さんは困り顔でそう言った。


「そうなんですか?」


「だって、去年は十組あったバンドの中から一組しか後夜祭に出れなかったんだよー」


 倍率十倍。俺みたいな人がそんな壁を越えることができるのだろうか?


「乃亜もそんなマイナスなこと言わないでよ」


「ごめんごめん」


「今年はもっといいオリジナル曲を作って絶対に後夜祭に出るんだから!」


 一条さんは目をキラキラと輝かせながら語った。


「そのためには、由那がいい曲書かないとだけどねー」


「乃亜も曲作ってよー」


「あーし、ドラム以外の楽器出来ないから」


「私と美沙と麻倉くんで一曲ずつ作ろう」


 俺も曲を作らないといけないのか。今まで曲なんて作った事ないし、そもそもどうやって作るのかわからない。


「俺、曲作ったことないんですけど・・・」


「大丈夫大丈夫、作詞は私が全部やるから」


 いやいや、そういう問題ではない。なぜ、作曲はできると思ったのだろうか。ちょっと困ったな。


「まあ、曲作りは私の作詞が終わってからでいいから」


「私も曲作るの?」


「もちろん。美沙も作ってよ」


「去年のやったので良くない?」


「それじゃダメ!」


「そっか。頑張って作るよ」


「それに、同じことやっても面白くないから」


 俺は作曲から逃れることはできなそうだ。


「由那ぁー、今年は三曲やるってことー?」

と中野さんはスマホを触りながら聞いた。


「そういうことだね」


「去年の三倍練習しないといけないのかぁー」


 去年は一曲しかやらなかったのだろうか。ちなみに、去年の文化祭に俺は参加しなかった。どうせ行ったってクラスを周る友達はいないし、クラスの催し物の手伝いをしようとしても、邪魔者扱いを受けるからだ。


「あと、乃亜には衣装とか考えてもらうからね」


「任せて任せて。あーしにいい案があるから」


 そう言って、中野さんはスマホを見せてきた。スマホに映っていたのは巫女服であった。夏なのに巫女服?と思っていると


「暑そうだから却下。それに麻倉くんが着れないじゃない」


「麻倉くんは宮司さんでいいんじゃない?」


「謎の神社縛りやめてくれない?」


「ダメだったかぁー」


 逆になぜ採用されると思ったのだろうか。


「とりあえず、最低限決めておきたいことは決められたから帰ろっか」


「そーだねー」


「じゃあ、私帰る」


 そう言って、工藤さんはすぐに教室から出て行った。このバンドは本当に個性的な人しかいないな。


「美沙帰ったから、あーしも帰るね」


 中野さんも茶色の鞄を肩にかけて教室を出て行った。


「私たちも帰ろっか」


「そうですね」


 俺と一条さんも教室から出た。


 思わぬところで俺は女子と二人きりになってしまった。何を話せばいいのだろう。


「麻倉くんって電車通学?」


「そうです」


「上り方面?」


「下り方面です」


「私と一緒だ」


「そうなんですね」


 やばい。緊張しすぎて淡々と返してしまった。


「あのさ・・・、」


 一条さんは歩道に立ち止まって何か言いたげにしている。俺の返が素っ気なさすぎて機嫌悪くしちゃったかな? そう思っていると


「敬語やめない。同級生なんだし」

と予想と違う意見だった。


 俺は無意識に敬語を使っていた。確かに同級生だからタメ口でもいいのか。そう思うと自然と緊張感が解けてきた。


「わかった」


「あと、麻倉くんのこと下の名前で呼んでもいい?」


「いいよ」


「ちょっと海斗くんと仲良くなれたかなぁ」


 一条さんは微笑みながらそう言った。俺みたいな根暗と仲良くなれて嬉しいのだろうか。



・・・



 電車をホームで待っている間、俺は疑問に思っていることを一条さんに聞いた、


「一条さんはさ・・・」


「一条さんじゃなくて由那って呼んで!」


「ゆ、由那はさ、なんで俺をバンドに誘ったの?」


「それはね、昨日スタジオのオーナーに作曲できそうな人を聞いたの。そしたら、海斗くんのことを紹介してくれたの」


 オーナーったらなんで俺に何も言わないでそういうことするのだろうか。そういえば、昨日オーナーに音楽論を学んでるか聞かれたような・・・。そんなことを思っていると、電車が来た。俺と由那は電車に乗り込んだ。


「海斗はどこで降りるのー?」


「四つ先の駅。由那は?」


「私は次の駅」


「そうなんだ」


 会話が終わり、俺は薄暗くなった車窓を見つめていた。すると、


「そうだ、まだ連絡先交換してなかった」


 そう言って由那はカバンからスマホを取り出した。


「LIME交換しよ」


「いいよ」


 俺は由那と連絡先を交換した。ちなみに初めて同じ高校の人と連絡先を交換した。そんなことをしていると、由那の最寄り駅に着いた。

 

「じゃあ、またねー」


 そう言って、一条さんは電車から降りた。

 



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