第3話 EXCEED

 放課後、俺は二年三組から二年一組に向かっている。いつもならもう帰路についている時間から、学校にいるのが不思議な感覚だ。そう思いながら、俺は二年一組の教室の扉を開けた。


 教室の中には、一条さんと女子が二人が席に座っていた。


「あのぉー」

と恐る恐る一条さんに声をかける。


「麻倉くん、待ってたよー」


「ど、どうも」


 俺は一条さんの妙に高いテンションについていけてない。高校に入ってからまともに友達と話していない俺はどんな反応をすればいいのかわからない。そんなことを思っていると


「由那、あなたのテンションが高すぎてこの子困ってるよ」

と髪がラベンダー色、ロン毛の女子が言った。


「そ、そんなにテンション高い?」


「うん、なんか変なもの食べた?」


「食べてないしー!」


 一条さんは顔を赤くして言った。いつもはどんな人なのだろうと思っていると


「そんなところに立ってないでここ座ったら?」

と髪がラベンダー色の女子に言われた。


 俺は言われるがまま、席についた。これから何が始まるのだろう。そうドキドキしていると


「じゃあ、みんなで自己紹介しよっか」

と一条さんが言った。


「じゃあ、あーしから自己紹介するねー」


 そう言ってミルクティーベージュ色でボブヘアーの少しギャルっぽい女子が話し始めた。


「あーしは中野なかの乃亜のあ、ドラム叩いてまーす。よろしくねー!」


「私は工藤くどう美沙みさ。ベースやってる」


「私は一条由那。ギターボーカルやってまーす。よろしくね」


「よろしくお願いします」


 こんなにキラキラしたメンバーの中に俺が入っていいのだろうか。そう思っていると、


「ギターくんの自己紹介は?」

と中野さんが聞いてきた。


 完全に油断していた。俺も自己紹介しないとだ。


「麻倉海斗です。ギター弾いてます。よろしくお願いします」


「「「よろしく」」」


 俺は初めて自己紹介で反応をもらった。


「麻倉くんって何組なのー?」


 中野さんは興味津々に聞いてきた。


「三組です」


「理系クラスなの!?」


「一応理系です」


「数学できるんだぁー。すごいなぁー」


 中野さんは感心している様子だった。俺は古典をやりたくなかったから理系にしただけなのに・・・。逆に俺は古典が出来る人を尊敬している。そんなことを思っていると


「音楽、何聴いてるの?」

と工藤さんが聞いてきた。


「シティポップとか聴いてます」


「へぇ、結構渋いね」


 確かに同い年にシティポップを聴いているはあまりいないかもしれない。でも、世界的ブームが来ている。


「私は『In course』とか聞いてる。特に『They are』とかは名盤だね」


 『In course』は七十年代から八十年代にかけて活動していたバンドだ。数多の名曲を残し、今も聴かれ継がれている。


「いいですよね。『In course』」


「麻倉くん、『In course』知ってるの?」


「知ってますよ」


「今まで同級生に知ってる人いなかったから驚いた」


 ほとんどの高校生はアイドルや邦ロックなどのSNSで流行っている音楽を聞いているから知らないのも無理はないだろう。そんなことを思っていると


「二人だけで話盛り上がらないでよぉ〜」

と一条さんが不満げに言ってきた。


「由那の変なテンションよりいいでしょ?」


「もぉ、そんなに弄らないでよ」


「そういえば、バンド名って何なんですか?」


 俺は思い切って一条さんに質問してみた。


「それがね・・・、まだ決まってないの」


「そうなんですね」


 俺はてっきりバンド名は決まっているものだと思っていた。そう思っていると、


「メンバー揃ったんだから、今決めればいいんじゃない?」

と中野さんが言った。


「そうだねー」


「私は何でもいいや」


「そんなこと言わないで美沙も参加してよ」


「どうせ、由那は私の案を却下するから」


「そんなこと言ってないじゃん」


 結成早々解散の危機。しかも、バンド名すら決めていないのに。そんなことを思っていると、


「由那と美沙の言い合いはいつものことだから心配しなくて大丈夫だよー」

と横に座っている中野さんが耳元で囁いてきた。


「そ、そうなんですね」


「バンドなんて喧嘩が付き物だからね。去年も・・・」

 

 中野さんがそう言いかけた時、


「「余計なこと言わないで」」

と一条さんと工藤さんが声を重ねて言った。


「喧嘩も終わったみたいだし、バンド名決めよ。誰か案がある人ー?」


「はーい!」


 中野さんの問いかけに誰よりも早く手をあげたのは一条さんだ。


「『EXCEED』って名前がいいでーす」


 一条さんがそう言った後、教室内に冷たい空気が流れた。しばらくして


「どういう意味なの?」

と中野さんが問いかけた。


「去年を超えていくって意味」


「なるほどねぇ。悪くなくなくなーい?」


 それは賛成ということでいいのだろうか。


「乃亜は賛成ね。麻倉くんはどう思う?」


「い、いいと思います」


「美沙は?」


「由那にしては・・・、いい案じゃない」


「じゃあ『EXCEED』に決定ね」


 一瞬ヒヤッとしたが、無事にバンド名が決まった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 21:00 予定は変更される可能性があります

根暗ギタリストは学園の美少女とバンドを組む 坂本宙 @Sakamoto_Sora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画