第2話 バンド加入

 ゴールデンウィーク明けの学校、俺は自分の席で有線イヤホンをつけて音楽を聞いている。やはり、音楽は有線イヤホンで聴かないと本来の音が聞こえてこない。そう考えるのだ。


 音楽を聴きながら、コンビニで買ったサンドウィッチを食べ始める。すると、背後から人気ひとけを感じる。イヤホンを外し、後ろを向いた。後ろに立っていたのは、茶髪の女子だった。


「誰かに用ですか?」

そう問いかけると、


「うん、麻倉くんに話したいことがあるの」


「俺に!?」


 なんで、こんな陽キャみたいな人が俺に声をかけてきたのだろう。それに、なぜ名前を知られているのか? こんな人と今まで話したことないのに・・・。


「そうだよぉ」


「ど、どなたですか?」


「私は二年一組の一条いちじょう由那ゆなよろしくね」


「よろしくお願いします」


「それでさぁ・・・」


 これから何を聞かれるのだろうか。すると、一条さんは笑みを浮かべながら


「昨日、スタジオでギター弾いてたよね?」

と問いかけてきた。


 なぜ、昨日俺がスタジオにいたことを知っているのだろうか。


「弾いてましたけど。なんでそれを・・・」


「だって、私もあのスタジオにいたもん。ほら、青いギターケース背負った人いたでしょ?」


「あぁ!」


 間違えてスタジオに入ってきた人の一人だ。まさか同じ学校の人だったなんて。


「思い出してくれた?」


「はい、思い出しました」


「それでね、私たちのバンドでギターを弾いて欲しいの」

と真剣な顔で言ってきた。


「はぁ?」


 なぜ、俺なのだろうか? 俺以外にもギターを弾く人はいると思うのに・・・。


「バンドって言っても、文化祭の有志発表の時だけしか活動しないバンドなんだけど。だ、だめかな?」


 どうしようかなと考えていると、


「何で学園のマドンナがあんな陰キャに・・・」


「何かの罰ゲーム?」

とクラスの人たちが俺の方を見てコソコソと話し始めた。すると


「ここだと騒がしいから他のところで話しましょ」


 俺は一条さんに腕を掴まれ、教室を出た。



・・・



「ここなら誰もこないから安心だね」


「そ、そうですか」


 俺と一条さんは誰もいない空き教室に入った。


「それで私たちのバンドでギター弾いてくれるかな?」


「俺以外にもギター弾ける人はいるんじゃないですか?」


「麻倉くんじゃないとダメなの!」


 一条さんはとても真剣な表情で俺の顔を見ている。


「スタジオのオーナーから聞いたの。音楽論について学んでるって」


 オーナーが音楽論について聞いてきた理由がわかった。学びたいと思っているなんて言わなければよかった。


 正直、バンドに入りたいという気持ちはある。しかし、俺みたいな奴が途中加入してもいいのだろうか。一条さんのバンドの株がブラックマンデー並みに下がるのではないだろうか。


「一条さん以外のメンバーは俺が入ることに賛成なんですか?」


「うん、みんな賛成だよ」


 そう言われると、断るのは申し訳ない気がする。


「少し考えさせてください」


「じゃあ、放課後までに教えてね」


 そう言って、一条さんは空き教室から出ていった。



・・・



 放課後、ついに一条さんに参加するか言わないといけない時が来てしまった。五、六限目はずっとこのことを考えていた。だからか、いつもより時間の流れが早く感じた。


 ペンケースをリュックに入れた時、


「麻倉くん、今大丈夫?」

と一条さんに声をかけられた。


「大丈夫ですけど、」


「何度も聞いてるけど、私のバンドでギター弾いてくれる?」


 一条さんは不安げに問いかけた。五秒くらい無言が続いた後、


「俺でよければギター弾きます」

と言った。


 色々と考えたが、バンドで演奏してみたいという好奇心が勝ってしまった。


「ほ、本当に!?」


 一条さんは驚いた表情を見せた。頼んでおいてそんなに驚くなんて・・・。そんな事を思っていると、


「本当にありがとー!」

と俺の手を握りながら嬉しそうに言った。


「お、大袈裟な・・・」


「麻倉くんみたいな人が私たちのバンドに入ってくれるなんて夢みたいだから」


 一条さんは俺の何を知ってそんなことを言っているのだろうか。ギターも高校生の中だとしてなりに弾けるくらいの実力しかないのに。そんなことを思っていると


「麻倉くんはこの後空いてる?」

と聞いてきた。


「空いてますけど」


「私のバンドメンバー紹介したいから一組にきて」


「わかりました」


 俺、麻倉海斗は一条さん率いるバンドに入ることになった。



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