根暗ギタリストは学園の美少女とバンドを組む

坂本宙

第1話 根暗ギタリストの日常

「五分前には退室お願いします」


 俺、麻倉海斗あさくらかいとはゴールデンウィーク最終日だというのに音楽スタジオ『OVER』でバイトをしている。なぜ、せっかくの休みなのにバイトをしているかって? それは、友達が一人もいないからだ。


 高校二年になったら、クラスも変わって友達が出てるだろうと考えていた。しかし、自然とグループができていて、俺は今年もひとりぼっちで学校生活を送ることになったのだ。


 明日、学校に行きたくない。行ったって友達は一人もいないし、授業もつまらないから休みたいなぁ。そんなことを思っていると、


「麻倉くん、シフト抜けてスタジオでギター弾いてもいいよ」

とこのスタジオのオーナーである金髪ロン毛の大間おおま涼子りょうこさんが言ってくれた。


「いいんですか?」


「うん、いいよ。今日はあんまり予約入ってないから」


 このスタジオは不思議なことにいつもあまり客がいない。だからいつもバイトに行くとオーナーの計らいでスタジオをタダで使わせてもらえる。


「ありがとうございます」


「一番奥のGスタジオ使ってね」


「わかりました」


 俺は、オーナーの言葉に甘えてカウンター裏に置いてあるストラトキャスターの入ったケースを背負い、Gスタジオに向かう。ちなみにこのギターはオーナーから格安で譲り受けたものだ。


 学校では、根暗でなんの特色もない奴だと思われているが、本当はギターを弾く。本当は校内でバンドを組みたいが、そんな友達はいない。一応、クラスの自己紹介の時に「趣味でギターをやってます」と言ったが、反応は一切なかった。多分、クラスメイトは嘘を言っていると思ったのだろう。そんなことを思いながら、俺はスタジオに入る。


 ギターケースの中から白のストラトキャスターを取り出し、肩にかける。そして、アンプに刺さっているシールドケーブルをギターに刺す。


 アンプの電源を入れ、俺は勢いよくEのコードを弾いた。スタジオ中に響き渡るギターの音。この音を聞いている時だけは、どんなに嫌なことも忘れることができる。


 俺は、ギターケースの中に入っている楽譜を取り出し、譜面台に置いた。主に、七十年台から八十年台にかけて流行したシティポップのコピーを一人でしている。自分で言うのも変だが、それなりにギターは上手いと思う。


 アンプのセッティングをしていると、ガチャっと分厚い扉が開く音がした。振り向くと、女子三人組がスタジオの中で立ち止まっていた。見た感じ、俺と同じくらいの年齢に見える。そんなことを思っていると、


「ま、間違えましたぁー」

と青いギターケースを背負った茶髪の女子が逃げるようにスタジオを出た。他の二人もその跡を追うように出ていった。部屋を間違える人なんて珍しいなぁ。初めてこのスタジオに来たのかな?


 俺もあんなふうにバンドを組んで文化祭とかに出てみたい。まあ、叶いそうもない夢だけれど。


 そんなことより、曲の練習をしないと・・・。誰かに見せるわけではないが、そんな使命感に駆られて俺はギターを弾き始める。



・・・



 なんだかんだで、二時間もギターの練習をしてしまった。ギターを弾いていると、あっという間に時間が過ぎていく。学校にいる時もこのくらい時の流れが早ければいいのに。


 ギターケースを背負って、スタジオから出た。オーナーのいる受付に向かう途中、Cスタジオから音が漏れていた。気になった俺は、ドア越しに覗いてみた。演奏していたのはさっきの三人組の女子だ。漏れている音を聞く限り、多分オリジナルの曲だろう。こんなに上手いバンドがいるんだぁと関心してしまう。


 俺もオリジナル曲とか作ってみたいなと思いながら、受付の裏に置いてあるトートバックを肩に掛け、


「お先に失礼します」


 そう言って、帰ろうとした時、


「そういえば、麻倉くんは音楽理論とか学んでるのぉー?」

と聞いてきた。


 急になんだ?と思いながら


「興味はありますけど、まだ学んでないです」

と本当に思っていることを言った。


「そうなんだ」


「それがどうかしました?」


「ううん、なんとなく聞いてみただけ。気をつけて帰ってね」


 本当になんとなく聞いてみただけなのだろうか? 何か深い意味があるような気がする。まあ、そんなことはいいや。


「はい、お疲れ様です」


 そう言って、俺はスタジオ『OVER』を出た。


 




 



 

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