小説の素晴らしさ 電子書籍✕鯖✕河原

「みなさんこんばんは〜それでは今日もワンライをやっていきましょう! 」


 『ワンライ』というのは『深夜の真剣文字書き60分一本勝負』というものの略称だ。僕は今、このカクヨムというネット小説の鯖でそんな企画をやっている。


 一時間で小説を一本完結させるというのはとても大変だ。大体千文字から三千文字位の間で物語を完結させるのだ。


 また、三つのランダムに決められたお題の単語を必ず分の中に組み込まなくてはいけなく、一瞬の間に先をも見通す力と、最後まで書き終わらせるという力が必要になってくる。


 だから『ワンライ』は小説を書く練習にはぴったりなのだ。


 僕は週に何回か開かれるこの企画に挑むために、日々電子書籍を使っていろいろな小説を読んで沢山のネタを仕入れている。いつ、どんなお題が出てもすぐに物語の構成が思い浮かんでくるように、日常生活から全部小説を書くための特訓だ。


 この企画では、書き終わった作品を参加者で読み合って感想を言い合ったりする感想戦もあるので、そこでどれだけのクオリティーを見せられるかが勝負の肝となっていると思う。


◇◆◇


「あ〜あ 今日もあんまりうまく行かなかったなぁ」


 僕は週に一度の『ワンライ』を終えて落胆した。


 やっぱり隣の芝は青く見えるものなのか、自分の作品がどうしてもいい作品に思えない。やっぱり何回練習しても全然うまくいかない。


 毎回、他の参加者の作品を読んだ時に、


「うわっ・・・・・・この人すごっ」


 と思ってしまう。僕は毎回こんな感じで落ち込んでから眠りにつく。


「そんなに落ち込むならやらなけでばいいでしょ」


 なんて言う人もいるかも知れない。でも、僕にとっては『ワンライ』は試練なんだ。別に、僕は書籍化を目指しているわけではない。でも、自己肯定感を高めたいんだ。

 

 僕は、昔から小説が大好きで、いつか小説家になりたいと思っていた。そうして、このカクヨムに小説を投稿し始めて、はじめの方は、


「小説を書くなんて全然簡単じゃん」


 なんて思っていた。でも、小説の大賞に応募して、一次審査で落選した時に、そんなにも小説の世界は甘くないのだと知った。


 でも、自分の作品を否定できなかった僕はどんどん他の公募などにも応募した。でも、そのどこでも挫折した。だからそんな少しでも、


「僕は小説が書けるんだ」


 と思えるように、自己肯定感を高めるために『ワンライ』を続けているんだ。


 次の日起きるといつものように河原を走る。朝の河原は川からの冷たい風が吹いていて本当に清々しい。


 太陽がまだ昇りきらないうちに、走りまくる。自分を一回リセットしてまた新しい今日を始めるためにためにだ。


 僕は大学の文学部に入っていて、結構時間に余裕はある。好きな小説を読んで、公園とかをフラフラして、大学の授業を受けて・・・・・・と、結構小説漬けの毎日を過ごしている。


 通学中は電子書籍を、家や大学の図書室では紙の本を。日々、小説のネタを吸収している。


 日常の中にある些細な出来事からも物語が生まれていく。いま、生きているすべての人々に、すべての動物に・・・・・・すべての生物にそれぞれの物語があるんだ。


 その膨大な物語を少しずつ切り取って一つの小説に仕上げていく。はじめは不格好でも、少しずつ、いつかはきれいな物語になることを信じている。


◇◆◇


 お世辞にも忙しい、頑張ったとか言えない一日を過ごしてまた朝と同じ河原に戻ってくる。朝と、夕方の冷たい風はまた感じ方が違う。太陽の位置も真反対だし、空の色もぜんぜん違う。


 僕は、毎回南を向いているベンチに腰を下ろして景色を見る。


 そうしていると思うんだけど、この今見ている景色を鏡写しにして見ると朝と夕方の景色って同じなんじゃなかって。


 でも、太陽の高さがどんなに同じでも周りの色は全然違った。なんでだろう。朝焼けよりも夕焼けのほうがずっとずっと真っ赤だ。


 朝焼けはどちらかと言うと少し青いイメージがある。


「ああ、なんでこんなに世界はきれいなんだろうな」


 毎日違う綺麗さがある。毎日同じ場所から同じ景色を見るからこそわかる日々のちょっとした違い。それに気づけてなんだか嬉しくなった。


 家に帰ると、論文なんかを後回しにして小説を書く。


「人間って結構自然の景色が好きなんじゃないかな? 綺麗さとか、美しさとか・・・・・・」


 そんな事を考えながらまた自分への挑戦の小説を書いていく。


 たまに小説全然書けなくて嫌になることもある。でも、実際小説を書いているときって楽しいんだ。自分の考えや思い、景色が全部文字となって浮かび上がってくる。


 所詮小説なんて唯の文字列だなんて思うときもあった。ひらがなに、カタカナ、漢字に数字にアルファベットにその他記号、今のパソコンは全部で約六万文字を表記できるらしいけど、小説で使うのはせいぜい千文字くらいだろう、だったら後は文字数で累乗していけばいいだけ、百文字小説だったら十万分の一の確率でその物語が出来上がるというわけだ。


 でも、小説を書いていくうちに、そんなに単純なものじゃないということがわかった。一文字一文字にその作者の心がこもっているんだと感じた。


 推敲という言葉があるように、扉を推すか、敲くかによってもぜんぜん違う。ましてや、もっとたくさんの選択肢がある。


「小説って奥が深いなぁ」


 だから小説を書くのがやめられないんだよ。どんなに不格好でも、意味がわかんなくてもいい。自分の想いを文字に起こすだけでなにかが変わる。


「よし、今日もワンライやりますか」


 僕は今日も小説を書く鯖を開く。この世界に小説のすばらしさを伝えるために。

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