第50話 誤解
翌日。学校にて黒板に、志桜里が麗美と二人一緒に夜、麗美のマンションへ入る瞬間を収めた写真が貼られていた。「レズビアンカップル(笑)」などと白いチョークで落書きもされていた。
クラスメートたちの嘲笑う声が聞こえる。だがしかし志桜里は特段気にした様子はなく、教室を見渡した。麗美の姿を探しているのだ。だがいなかった。
「あれ~恋人さんを探しているのお? あいつだったら帰ったよ」
「まったくメンタル弱すぎ。ふふっ」
そういじめっこ達は笑い合った。これには志桜里も怒りが我慢できなかった。
「ねえ、そういうのよくないよ」
言葉を発した志桜里に、鋭い睨みを利かしてくるいじめっ子達。だが構わないし、ぶっちゃけ何とも思わない。志桜里からすればこいつらは他人を蹴落とし、優越感に浸っているだけのクズだ。そういう行為をすることでしか自尊心を保てないのだから滑稽でもある。
「レズなんかきもいっつーの。女同士でキスとかするんでしょ。まじきもいって」
そして大笑いする。プツンと頭の血管が切れたように感情の制御が出来なくなった。志桜里はいじめっ子の一人の顔面を殴ろうとしたが、けっきょく出来なかった。
「何しようとしてんだよ」
と志桜里が殴ろうとしてくるのを見たひとりが、逆に殴ってくる。志桜里は地面に崩れた。
そしたら合唱で「消えろ」と連呼し始めた。志桜里は涙をぬぐって教室から抜け出した。
全力で走った。走って。走って。走りまくった。
校門を出ると、雨が降ってきた。近くのバス停に駆け込んだ。
「え?」
そこにはどうしてか香帆の姿があった。
「どうしてこんなところに? 香帆ちゃんの最寄りのバス停ではないでしょ」
香帆はふふっと笑って、「このバスの終点のところが私の高校の最寄りなのよ。なんとなく志桜里ちゃんのいる高校の最寄り駅で降りたくなって」と喋る。
「そ、そうなんだ」
「でもほんとうにこんな偶然あるんだね。すごいかも」
志桜里にそう言って彼女は笑う。
「偶然?」
「うん。志桜里ちゃんが学校から抜け出さなくちゃこんな偶然、有り得ないよ」
「どうしてそう思うの?」
抜け出した、なんて普通は分からない。たしかにこの朝の時間に学校から飛び出したらそういう風な言い回しは出来るかもだけど、普通の考えだったら体調不良などで早退をしたと考えるのが筋だろう。
「なんとなくかな。だって志桜里ちゃん学校大好き人間じゃん。まあ、そのせいで一度『死にたい』なんて思っちゃたんだろうけど。自分を追い込みすぎてね」
志桜里は言葉が出なかった。いままで自分は空虚に学校に通っていた。いや、本当はそんな空っぽな自分は嫌だったのかもしれない。だからこそ、普通の学生生活というものを渇望していたのだろう。朝は誰かと一緒に登校し、クラスで駄弁り、そして放課後にプリクラを撮ったりカフェに寄ったりするそんな生活。それに憧れていたんだ。
すると香帆は自分が座っているベンチの横を叩いた。一緒に座れ、ということなのだろうか。それに同意し座る。そしたら志桜里の頭を抱き寄せ膝に置く香帆。
「ねえ香帆ちゃん。私、ときどき変な夢を見るんだ」
「どんな夢?」
「香帆ちゃんとキスをして、そんな香帆ちゃんのことが怖いと思っている不思議な夢」
「たしかにそれは変な夢だね」
「そうでしょ」
香帆は優しく志桜里の頭を撫でてきた、
「そういえばまだ抱き合うのはやっていたけど、キスとかはやっていないね。どう、やる?」
それは……なにか超えてはならない一線のように思える。
でもよかった、彼女にこんな自分を愛してもらえるなら本望だ。
「お願い……して」
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