第40話 動物病院、その後の猫の名前。
6
「ごめんね。お茶とか出せないで」
「大丈夫だよ。あの状況じゃ逆に出してもらうほうが申し訳ないし」
志桜里は、周囲を見渡す。ぬいぐるみやどこからか桃の香りがするような、女の子の部屋だった。自然と緊張してしまう。
麗美ちゃんと二人っきりなんだよな。以前は正直に言えばとても怖い存在で、いまは愛おしい存在になっている。
するとLINEの着信が鳴った。
「どう、動物病院での猫の容態は?」
「ちょっと待って。いま確認する。えっと……怪我や病気、感染症もないって。で、駄菓子屋で引き取るって」
「ん? 待って。あの蛍っていう人、駄菓子屋も経営しているの? カウンセラーをやりながら?」
「子供たちがよく遊びに行く場所って昔から決まっているそうで。そこが駄菓子屋らしくて、そこで児童の心的ケアも行うんだって。そうやって蛍さん自身もカウンセラーとしての能力も鍛えるそうで」
「へえ。すごい」
「じゃあそろそろ帰りますね」
ドア越しに聞こえる喧嘩の声に、恐々としてしまうし、麗美は志桜里が居心地が悪いのではないかと心配もしているだろうし、ここはもう帰るのがベストだ。
「あっ、いつでも蛍さんの駄菓子屋に来てくださいね。待ってますから」
笑っている志桜里に、
「ありがとう」
と感謝を伝えてくれる麗美。
麗美の部屋から出る。まだ夫婦は喧嘩をしていた。
マンションのロビーから出ると黄色の派手なRX7が路肩に止まっていた。
サイドシートに乗り込む。すると膝上にニャーと猫が乗ってくる。
「可愛い……」
「可愛いでしょ。あっ、名前決めてもらいなさいよ。あの子に」
「ああ、麗美ちゃんに。そうですよね」
見つけた人が名前を決めるのは、特権みたいなもんだろう。
LINEでそのことを麗美に伝えると、「大谷」と返ってきた。
それに吹き出してしまう。
「年間MVPに出そうな名前だね」
そう送るとにこちゃんマークのスタンプで返ってきた。
「何て名前に決めたの?」
「大谷だって……。猫だから愛嬌と格好良さの二刀流になりそうだね」
「この子、女の子だよ」
「えっ……」
そのことをまたメッセージで伝えると、変顔のマークが返ってくる。
で、結局名前どうすんの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます