第38話 麗美と一緒に登校
翌日、池袋駅から降りたときに、手を振ってくる同級生がいた。
その子は可愛い、と個人的には思う。
「やあー。偶然ですねぇ」
電信柱の影からこちらに歩み寄ってくる、その子の名前は司馬志桜里。
「学校に来てくれたんですね。良かった」
「凄い憂鬱だけどね………」
ジトっと志桜里の姿を見てしまう。
あんたはこんな気持ちのなか、登校していたのね。
学校に行くことが怖くって仕方ない。いじめられれるのはどれほど悲しんだろう。
するとそんな心中を察したのか、志桜里は肩を掴んできた。
「大丈夫です。私が付いてます。悪口をひとつ、言われればあなたを励ます言葉をひとつ、捧げますし。一人で弁当を食べるのが嫌だったら、一緒に食べますし。そしてトイレも一緒に行ってあげるし」
「トイレはいいわよ」
麗美の声はもはや涙声だった。
彼女はなんと強いのだろう。いや、違う。彼女を心の芯から強くしてくれた存在がいるんだ。
その人に感謝を……いや、謝らなくてはいけないな。
それから彼女は有言実行して見せた。陰口を叩かれるたびに、「麗美さんって美人ですよね」なんて軽口を叩いてきた。それに無理に笑って返すと、倍以上になって褒めちぎられた。そんなに心配しなくてもいいのに。なんて思ったりもしたけど、でも心強かった。
でも、世の中は罪人には冷たいのよ。それが志桜里には分かってはいないことだった。
担任に呼ばれて志桜里がいない休み時間を狙って、いじめっ子たちが麗美の肩を掴んだ。そしてなんと教室で掌底を喰らわしたのだ。
すぅっと鼻血が出る。
「なにすんのよ」
「あんた、なに能天気に学校に来てんのよ」
やばいって。先生呼びに行こうぜ。生徒たちが職員室へと駆けて行った。
髪を引っ張られた。痛みで喘いでしまう。
「あんたのせいで、推薦落ちたんだからね。何年も陸上頑張ってきたのに」
「そんなの、知らないっ」
頭を机の面にぶつけられた。そしてその勢いが大きかったのか、麗美は気を失った。
なんだろう。左手が温かい。
意識が覚醒し、目を開けると左手をぎゅっと握って涙をこぼしていた志桜里の姿があった。ここは保健室だろう。
「あんた、なに泣いてんのよ」
「私のせいです。私があなたの学校に行く時期を見余ったからこうなった。すべて自分の責任です」
麗美はフッと笑って、右手で彼女の頭を撫でてやった。
「あんたのせいじゃないわ。これも全部因果応報。そっくりそのまま悪いことが自分に還ってきているのよ」
でもっ、でもっと泣いている彼女。
どれだけ優しい子なのだろうか。
あれ、目が霞んできた。
「どうして麗美さんが泣いているんですか」
「あんたに心打たれたのよ」
ようやっと言えたのは、そんな言葉だった。
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