第37話 麗美の思い。百合の花びらの味の真相。
「傷の手当てをしないと」
麗美の家に上げてもらった志桜里。彼女の家は豪邸だった。どこかの画家が書いた絵が玄関に飾られ、フローリングにはペルシャ絨毯。そのどれもが彼女の親の品位を主張するものだった。
リビングではテーブルの上に1万円札とお寿司のパックがあった。麗美はそれを一瞥し金は財布の中へ、寿司はゴミ箱の中へ捨てた。
「全く・・・・・・」
どこか恨み混じりの声に困惑を覚えた志桜里は、
「どうかしたんですか?」
と訊ねるも、
「服を脱いで」
そう話をはぐらかされた。
制服の上着を脱ぐと凝血した部分に消毒液で染み込ませた綿を、当てた。
「ねえ、どこか外食しない?」
いやいや、さっきあった寿司を食べれば良かったのに、なんて思った志桜里は貧乏性なのだろうか。
「お詫びも・・・・・・その、したいし」
「判りました。行きましょう」
✳✳✳
「で、どうしてこうなるの?」
訪れたのは甘味処であった。
「もっと良い場所へ行きましょうよ。金ならいくらでもあるのに。寿司とか、焼き肉とか」
「ここのみたらし団子はとても美味しいんですよ。それに放課後に甘いものを同級生と一緒に食べることが私、好きなんです」
「はい、お姉さん達、出来上がったよ」
店主のおじさんが団子を渡してくれる。椅子にそれぞれ座って一玉食べる。租借する度に甘さと弾力が口一杯に広がって美味しい。志桜里は満面の笑みを溢してしまっている麗美を見て、連れてきて良かったと思った。
「なに見てんのよ」
「いや、幸せそうで何より、とか思っただけです」
「なにそれ、皮肉?」
志桜里は幸せそうに笑った。
「違いますよ。誰かを助けることが、こんなにも心が洗われるなんて思いもしなかったですから」
「臭いセリフね」
「どれだけでも言ってください。私は決めましたから。あなたに拒絶されようと、あなたと友達になろうって」
目を見開いた麗美。それからクスッと笑って、
「やっぱりあんた、臭いわね」
冗談に志桜里は自分の腕の匂いを嗅ぐ。
「そんなに臭いですか? お風呂はちゃんと毎日入っているんですけどね」
その言葉に吹き出した麗美。
「あんた、冗談も言えるようになったんだ」
「え、何のことです?」
「まさかの天然だった?」
そしたら志桜里は笑って、
「冗談ですよ」
むうとふくれっ面をする麗美。
「あんまり私を馬鹿にしないでよ」
そして二人は大笑いした。
「どうです、私たち友達になりませんか?」
その言葉の意味に少し緊張しているのか、俯いた麗美。
「あんた、わかっているの? 今は私が虐められているの。それをかばうような真似をしたら今度はあんたが“また”いじめられるわよ」
「だから何ですか」
キリっと睨みつける麗美は、以前のような険を帯びていた。が、それはひとえに志桜里を心配しての行為だった。
「私は、こんなこと言いたくもないですけどあなたのせいで死を渇望しました。それでも生きることの尊さ、自死への稚拙さを身に染みて分かったとき、始めてこの世界が綺麗に映ったんです。……麗美さんは百合の味って知ってますか」
「ああ、あんたのその髪の簪?」
「そうです。もちろんこの花弁のまんまじゃ食べられないんですけど、乾燥させて食べてみるとけっこう甘いらしいんですって」
「ふーん。で、あんたは何が言いたいの.?」
「私、レズビアンなんです」
えっ、と麗美は驚く。
「レズ、って直喩で百合とも言うじゃないですか。だからこの花は私を表しているのだと思うんです」
「甘いことが?」
「はい。まるで私の性格のように」
大笑いする麗美は、
「それ、面白いね。自分で甘ったれとか言うんだ」
すると志桜里は優しい笑みを漏らした。
「だから、私を信用してくれませんか。私はもう、あなたのこと赦しているんですから」
そう、と言ったずずっと鼻を啜った麗美は、少し涙目だった。
「ありがとうね。ほんと」
ボソッとそう言った麗美の尊さが可愛かった。
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