第31話 記憶が戻り、再スタート。
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本当ならば香帆に殺される当日。志桜里は車椅子を押していた。乗っているのは香帆だ。
医者の許可をもらい、一時間だけの外出を許された。
花畑に向かい、さまざまな花を見る。チューリップ。菊。そしてオオアマナ。それから百合。
「あれ……」
ずっと無言だった香帆が口を開いた。彼女が指をさした方向を見ると百合の花弁が風に揺られていた。
「あなたの髪に巻いているものと同じね」
「ああ。あれですか……」
志桜里は苦笑しながら髪に巻かれた百合の花弁を触った。
「この花言葉は『希望』という意味があって、私とあなたとの絆でもあったんですよ」
「希望?」
「ええ。でもよく考えたらおかしいですよね。あなたは三十万と引き換えに私を殺してくれようとしていたのに、そんな意味の花を渡してきたのだから」
「……もしかして……シオリちゃん?」
衝撃を感じた。まさか、記憶が戻ったのか?
「もう一度言ってもらえませんか? よく聞こえなくて」
「志桜里ちゃんだよね」
志桜里は堪えきれなくなって香帆のことを抱きしめた。
「ありがとう。記憶が戻ってくれて……」
「まだ死にたいとか思っているの?」
「もう、思っていないよ。私が命を軽々しく扱ったから、神様が怒ったんだよ。あの、意地悪な神様がね」
志桜里が百合の花園に向かい、一本抜いてそれを香帆の髪に巻く。
「私と、交際してくれますか?」
「はい」
香帆は満面の笑みを浮かべた。
「一日一回と言わず、何度でも抱きしめ合おう」
志桜里は泣きながらそう言って香帆を再び抱きしめた。
生きる意味を見い出せた志桜里。彼女はこれから他人のために生きようと決心するのだった。もう二度と自死を願わないためにも。
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