第32話 一時の休息
父親が駄菓子屋に再びやって来た。
「さあ、許嫁になってもらおうか」
腕を組みながら威圧的に見下ろしてきた。それに粛々としていると、蛍が「ちょっとすいませーん」と調子よく会話に入ってきた。
「あなたは誰です。いま俺は娘と話しをしているんだ」
「実は、藤原産業株式会社の株式の過半数を買収しまして、この子を許嫁にしても投資はさせませんよ。それでもいいんですか?」
藤原産業とは巧の父親の会社だ。
「待ってくれ。今確認する」
どこかへ連絡をかけた父親。それから数分後、父親は激昂した。「くそ‼」たぶん蛍の話が本当だと知ったのだろう。
「もういい。お前とは勘当だ。二度と家に帰ってくるな」
そう言って父はセダンに乗り込んで走り去っていった。
志桜里の気持ちは、勘当されたというのにどこか清々しかった。
「ありがとうございます。蛍さん」
「いいえ。でも頑張りなさいよ。親がいないってことがどれだけ大変なことか。ついぞ分かるはずだから。そのときになって後悔しても遅いのよ」
「はい。覚悟してます」
そしたら髪の毛をかき乱された。「それならよろしい」
「さあ、家の中に入って。歓迎会するわよ」
駄菓子屋の家屋の中に入り、二階へと通される。リビングに着くと、クラッカーの音が響いた。志桜里は驚いて目を瞑る。
「親離れおめでとう!」
香帆が微笑みながらクラッカーを持っている。
「もう何してんのよ。びっくりしたじゃない」
「サプライズ成功だね」
無邪気な笑みを漏らす香帆。そんな調子も含めて可愛かった。抱き付いてしまう。
「大好き。香帆ちゃん」
「おいおい、志桜里ちゃん。私もいる場でイチャイチャしてもらうと困るな」
腰元に手を当てて蛍は呆れているのか溜め息を吐いている。
「すいません。この尊すぎる生き物を見ると、我慢できなくって」
ちなみに蛍は、志桜里と香帆の関係を知ってくれている。お互いがお互いのことを愛し合っていることを知ったとき、「多様性だねえ」と笑って受け入れてくれた。
志桜里と蛍は座布団に座り、テーブルの上に広げられているたくさんのパーティ料理を見ては気分が楽しくなってくる。
たこ焼きプレートの中で焼かれている生地がぷつぷつとしている。それを串で丸めて、皿に盛り付けソースとマヨネーズをかけて、ふぅふぅと息をかけ冷まして、一口齧る。美味しい。
「たこ焼き好きなんだね」
そう、オムライスを口いっぱいに頬張っている香帆に言われた。口元にケチャップを付けていたので志桜里はテイッシュで、香帆の口元をぬぐってあげる。「ああ、ありがとう」
「ま~た、いちゃいちゃして」
やんわりと温かいまなざしを向けてきている蛍。
すると蛍に見せつけるように、スプーンで掬ったオムライスを志桜里に差し向ける香帆。
それを恥ずかしくも一口食べる。甘ったるい味付けがとても美味しい
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