幕間 逃避行なんてものは…

 逃避行、なんてものは生きる目的がない者がやるものだ。実際、志桜里はそれをしてしまっている。


 やりたいことノート。彼女——香帆が志桜里のために作ったもの。

 これを一つ一つこなしていくことで、奇跡が起きるのだろうか。

 笑ってしまう。そんなの、自分は奇跡なんて馬鹿にしていた人間じゃないか。

 自分がいじめられているときは、奇跡なんて起きなくて、ずっと苦しめ続けられていて、胸の内側が痛かった。


 奇跡なんて神様の気まぐれ。弄ばれて終わる、それが奇跡の本質なんだ。

 それが起きるときに、決まりきまった前口上があるわけでもない。

 喉から手が出るほど欲しいときには陰りが生まれ隠れて、曇った眼鏡から見えるような桃源郷。それが奇跡というものの暗喩だ。


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