第27話 蛍の気持ち、つまるは姉の想い

 志桜里だけ一時帰国した。憂鬱な気分はそのまま。

 どうしよう。どうしよう。

 香帆が死んでいたらどうすれば……というか、まだ頭の整理が出来ていない。


 少年の声が聞こえて、それを聞いた志桜里と香帆。香帆が見てくると言って声が聞こえた路地裏へと向かって数十分。志桜里が気になって現場を見に行くと香帆の胸にナイフが刺さっていた。驚愕だった。


 そしてまずは韓国の病院に搬送され、その後容態が落ち着いたら日本の病院に移される。面会が出来るのは、移された後だろう。


「蛍さんに……謝らなくちゃ」


 そう思い俯ける。

 飛行機は羽田空港へと降りた。

 ロビーで歩いていると蛍が見えた。志桜里は蛍の元へと走った。

 そして、土下座した。周囲の通行人は邪魔だと見咎めている。


「話は聞いてる——」


 蛍は志桜里の側に寄り、そして志桜里を力強く抱きしめた。「え?」唐突なことに困惑してしまう。


「あなたが無事でよかった」

「でも……香帆ちゃんが。もしかしたら死ぬかもしれないんです」

「分かっているよ。でもそれは志桜里ちゃんのせいじゃない。ニュースは見た?」


 志桜里は首を振った。


「犯人の韓国人がすぐに捕まったそうだって。だから安心して」

「安心なんか出来ませんよ。今も彼女は生死をさまよっているんです。だから——」

「そんなの知ってる! あなたの気持ちも、全部含んだうえで大丈夫って言ってんの。私だってね、凄く悲しいんだよ。それでも耐えているの」


 それぐらい察してよ、と涙目で訴えてくる蛍。それに自分の浅はかさを思い知った。


「すみません」


 蛍は涙をぬぐって、ごめん、感情的になっちゃったと言い、財布から一万円を渡してきた。「先に駄菓子屋に帰っていて。数日したら帰ってくるから」


「分かりました」


 志桜里はとぼとぼとロータリーへと向かった。


 ♰♰♰


 駄菓子屋に着き、家屋の中に入る。鍵はポストの中だと以前教えてもらっていたのでそれを使った。


 きゅうう、と腹の虫が鳴った。持ち金はあまりなく、買い物にもいけない。だったらここの駄菓子で満腹にするしかないな。 


 冷凍ご飯を電子レンジで解凍し、それをどんぶりに盛り付ける。そこに中農ソースとビッグカツを垂らして乗っける。これでとんかつ風どんぶりの完成だ。まあ、ビッグカツのカツは魚肉だと聞いたことがあるが細かいことは気にしない。


 だがしかし、食欲が湧かなかった。空腹は感じている。なのに食が進まない。溜め息を吐いてしまう。


「香帆ちゃん……」


 花の簪を触る。

 ねえ、あなたはいま大丈夫なの?

 自分を残して死んだりしないよね。

 そんな不安が脳裏をよぎる。

 首を振って、かつ丼風どんぶりをひと口食べる。カツはやはり駄菓子だけあって薄っぺらい。

 

 それも結局半分残して、後片付けをして、二階に行きベッドにくるまって瞼を閉じた。

 夢は見なかった。

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