第22話 ひどい話

 4


 夜。駄菓子屋に戻るとそこには父がいた。唖然としていた志桜里の頬をはたいた。


「なにやっていたんだ。勝手なことばかり」


「ごめんなさい。でも、どうしてここの場所が分かったの?」

「警察から聞いたんだ。そしたらカウンセラーから相談を受けていると言われてな。今そのカウンセラーがお前を保護されていることまで知らせてくれたんだ」

志桜里は沈黙してしまった。

「もういい。お前には最後まで告げないつもりだったが、来月、北海道の学校の転入試験を受けさせる。通信制高校だから、面接だけでいいそうだ。巧君のお父様も、『既婚者』という俺の家系との繋がりが欲しいだけだからな」


 のうのうと酷いことを言われているはずなのに、心に響かない。


「もうお前はうちに帰ってこなくていいし、向こうのご両親に厳しくしてもらえ」


 来月また来る。そう言い残して父親はセダンに乗り込んだ。車は走り去っていく。

 志桜里はすとんと地面へ崩れ折れた。これで苛め以外に死ぬ動機は出来た。全部ひっくるめて父親のせいにして、死んでやろう。そう、強く強く心に決めた。

 このありさまを黙って見ていた蛍と香帆。蛍は携帯灰皿に煙草をすり潰した。

 そしてどこかへと行った。それから帰ってきたときには車のカギが握られていた。


「今からちょっとパパの会社に行ってくる。香帆、志桜里ちゃんをお願いね」

「合点承知の助」


 香帆は敬礼を冗談ぽくっして見せた。

 裏口に停めてあったRX-7に乗り込み、リトラクタブルライトを開けて、道路を駆けていった。

 二人残ったこの場所。


「どうする、志桜里ちゃん。部屋の中に入る?」


「うん……」


 ふらふらと立ち上がり、駄菓子屋の家屋に入る。そして間借りさせてもらっている部屋に足を踏み入れる。

 そこでばたんと倒れた。そして暗闇のなかで窓から見える月に手を伸ばす。でも当然なにも掴めない。

 ――自分は虚像を見ていた。現実と幻想の区別のつかない愚か者なら、やはり死んでしまえ。


「私、もう生き続けることは出来ない。このまま殺して……」


 そしたら香帆が近づき、耳元にそっと声をかけてくる。


「あなたのこと好き。だからね、まだ殺さない。この世界にはたくさん面白いこともあるし、十個のやりたいこと、半分も出来ていないじゃない。だから、まだ殺さないわ」


 志桜里は嗚咽を漏らした。

「どうして三か月後の猶予なんて作ったの?」

「一目惚れしてしまったからだよ。あなたに。出来れば生き続けてほしい。私はその想いで一杯なの。けれどあなたが望むなら殺す。その覚悟も出来てる。でもね、ひとつだけ分かってほしいのはあなたのことをずっと愛してます、ということを」


 香帆のその言葉で、どれだけ自分が情けないことを考えていたかを分かったような気がした。


「私も、私もっ……!」


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