第21話 約束、愛し合うこと


 夕刻。外では小雨が降ってきた。東海道新幹線の座席に座り志桜里は旅行の余韻に浸っていた。久しぶりに楽しかったな。


「また、行こうね」香帆がそう言った。それに志桜里は断定した。


「もう、ないでしょう」


 志桜里はじきに香帆に殺される。もうあと一か月だ。だとすれば、こんな機会ないだろう。


「ねえ、もし私があなたを殺さなかったら、どうする?」


「そのときは……」


 言葉に出してはいけないことを、ぐっと飲みこんで笑ってやった。


「それでも、恋人だよ」


「……そっか」


 そしたら香帆は先ほど撮ったチェキを取り出し、マーキーでなにかを書いた。それを渡してくる。

 そこには『約束、愛し合うこと』と書かれていた。


「香帆ちゃん、これって……」


 発車を告げるブザーが鳴った。そして、車両はゆっくりと加速し始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る