第20話 メイド喫茶で思い出を

 2


 梅田駅の周辺を歩いていると、とあるメイド喫茶を見つけた。


「ねえ、入ってみない?」


「メイド喫茶? 確かに興味はあるけど……」


 そう言って一緒に入店する。


「おかえりなさいませ。ご主人様」


 近世のメイドの服装を着ている、可愛らしい女性たちに出迎えられた。

 すると香帆が上気した顔で、「興奮するねえ!」と言った。ちょっとキモかった。

 席に座るとメイドが「何をお飲みになられますか?」と訊ねてきたので、志桜里と香帆はカフェラテを注文した。


「何を注文する?」


 志桜里がそう聞くと、香帆はにこっと笑って、「ここは一択でしょ。せーの」


「オムライス」

「たこ焼き」


 なお、オムライスと言ったのが香帆で、たこ焼きと言ったのが志桜里だ。


「ここはオムライスでしょ。ラブラブチューニュしてもらおうよ」

「もう、ここに来てからずっとキモいよ」


 するとメイドが来て、「お二人はご友人さんですか?」と訊ねてきた。


「ええ、そうで——」

「いえ、恋人同士です」


 また、恋人同士ですと言ったのは香帆である。志桜里は頭を抱えそうになった。確かにそうだけれども……

 そしたらメイドは手を叩き、「だったらメイド服に着替えてみてはどうですか? そしてその格好で恋人様にラブを注入するのです」ともはや痛々しいを通り越して頭痛が志桜里の頭を貫通する。


「それいいですね。志桜里ちゃん頼むよう」


「わかった。わかったから。着替えてくるから」


 バックヤードの方へ向かい、サイズに合ったメイド服に着替える。


「いいですか。彼女さんはオムライスを注文されました」


「はい」


「『ラブ・ラブ・あなたのことを大好きずっきゅん注入~♡』と言ってケチャップで愛してると書いてください」


 駄目だ。恥ずかしくて死にそう。


「出来上がりましたよ。オムライス」厨房のスタッフがそう言った。


「じゃあ持っていきます」


 沈んだ顔で皿を持つ。そして香帆のテーブルにオムライスを置いて、ケチャップで『愛してる』を書きながら「ラブ・ラブ・あなたのことを大好きずきゅん注入~」と棒読みで言った。


 香帆はというと口元を手で押さえて笑いをこらえている。こいつ、殴ってやろうか。

 そして彼女がオムライスを一口食べると、その笑顔はなぜか感涙に代わった。


 それがどうしてかは分からなかった。


 最後にチェキを撮った。その出来栄えに満足がいったのか香帆は再び上機嫌になった。

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