第18話 好きって言わされた……

20


 目を覚ます。


「知らない天井だ」


 志桜里がそう言うと、横でくすっと笑われた。


「そりゃあそうでしょ」


 一緒に寝ていたのか、香帆が笑みを見せていた。


「よかった、某アニメの有名台詞を吐けるほどには回復したみたいね」


 志桜里はむくっと起き上がって、周囲を見渡す。本棚がやけに多い部屋だなと改めて思う。どの本も心理学の参考書ばかりだ。


「あのー、パジャマから着替えたいので外してもらってもいいですか?」


「なんで? 女の子同士なのに」


「それは……」


 意識しているから、なんて到底言えない。もう恋愛対象として見てしまっているのだと。

 すると未だに付けていた百合の簪を見て、微笑んだ香帆。


「もしかして、もう私のこと好きになってくれたの?」


 ずるい。そんなこと言われたら照れてしまうじゃないか。

 赤く染まった頬を隠すように、志桜里は俯く。

 それによしよしと志桜里の頭を撫でてやる香帆。「可愛いな」


「そんなこと言わないでくださいよ。恥ずかしい」


 志桜里は意を決して彼女の肩に頭をのせた。それに最初は驚いていた香帆だったが、しかし受け入れた。

 そのまま、志桜里を包みこむように抱きしめた。


「これで一日一回の抱き合いは出来たね」


 その部屋に、一筋の陽光が射した。


「いつまでも、こうしていたいね」

 

 それは、恋の続きか。はたまた終焉の前のファンファーレか。


♰♰♰


 階下に降りると卵焼きの甘ったるい匂いがした。


「おはよう。ご飯なら出来てるよ」


「ありがとうございます」


「いいのよ。さあ、席に座って」


 ダイニングテーブルの側の椅子に座って、出された紅茶を口に含んだ。


 白米に、茄子の味噌汁にお漬物。卵焼きにケチャップが添えられたウィンナー。


 香帆と蛍は隣同士に座って、食事を始める。香帆がウィンナーを食べる際に付いたケチャップをぬぐってあげている蛍。なんて仲の良い姉妹なんだろう。


 羨ましいな。そんなことを思ってしまって、ふと我に返る。


 自分にそんな価値はあるのか? 誰かに疎ましく思われている自分に。


 自然と俯けてしまう。それを見た香帆が「どうしたの?」と訊ねてくる。


 それに口角が引きつった笑みを零してしまった。そんな自分は愚かだ。


 朝食を食べ終え、昨日のうちに制服などを蛍さんに自宅から持ってきてもらったものを着て、学校へ香帆と一緒に向かう。


「ねえ。手を繋がない?」


「手、ですか?」


 にこりと笑う香帆。

 手を差し向ける香帆に、少し戸惑ってしまう志桜里。

 どうしよう。手は緊張から汗ばんでいるし。彼女に触れられただけで心臓が破れてしまうほどに鼓動が早まるだろうし。

 でも、勇気は出した。恐る恐るといったように手を繋いだ。


「あーあ、私が男の子だったら、あなたと純粋な恋愛が出来るんだろうけど……」


 風が靡いた。これだけは言わないといけないと思った。


「私、香帆さんが男の子でも女の子でも、きっと—」



 恋をしていたんだろうと思います。そう明瞭に言葉に出した。



 香帆は一瞬だけ、目を丸くさせたがそのあと意地悪な笑みを見せた。


「私もだよ」

 あっ、言わされたんだ……



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