第17話 駄菓子屋に避難
19
あの、香帆の姉だというカウンセラーの蛍の家に向かっていた。
そしてその駄菓子屋の前はシャッターが下りていた。
「どうしよう」
「あっ、志桜里ちゃん。どうしたの?」
声の主は香帆だった。その表情はどこか心配を帯びていた。
「大丈夫? 顔色暗いよ。それにこんな時間に——」
志桜里はもう、濁った川に飲み込まれているのを感じながら、それでもこんな自分を受け入れてほしいと思って、香帆に抱き付いた。
そしたらよしよしと頭を撫でられた。
「今日も一日一回の抱き合い、約束守れたね。お姉ちゃんの家に行こうか」
そう言って香帆と手を繋ぎながら裏口のほうへと回って、勝手口の扉を開けた。
「もう帰ってきたの? ちゃんと牛乳は買えた? ってあれ? 志桜里ちゃんじゃん」
「道端で泣いていたから拾ってきた」
「おいおい、志桜里ちゃんは猫じゃないぞ。……でも、どうかしたの?」
「話すと長くなるので……」
そうしたら蛍は志桜里に紅茶を出した。それは自律神経を整える作用のあるハーブテイだった。「ゆっくり語りなさい。いくらでもここにいていいから」
許嫁のことを話すと蛍と香帆はそろって「古くさっ」と言った。
「許嫁なんて今どき聞かないわよ。それに志桜里ちゃんの気持ちはどうなるのよ」
「心配してくださってありがとうございます。私、どうすればいいんですかね」
許嫁ねえ、と呟き紫煙を吐き出す。それから蛍は、「ちょっとうちのパパに頼んでみようかしら」と言った。
「そうだね。それがいい」
「えっと……どういう意味ですか?」
「パパはね、内資系企業のトレーダーをやっているのよ。うまくやれればだけど、その企業に株式介入できるかも」
株式介入? ちんぷんかんぷんな表情をしてしまうと、そんな表情を汲み取ったのか、
「上場企業にはね、結論を出すとき株式総会の一致が必要なの。その株式の保有数で何票入れられるかが決まるから、それで社長に引導をパパに渡してもらえればいい。それですべて解決」
と声高らかに言った。
そんな都合よくいくかなとか思ったけど余計なことは言わないでおいた。
「お姉ちゃん、思考は突飛だけど策謀はなぜかうまくはまるんだよね。やっぱり頭が良いからかな」
「そんな褒めないでよ。香帆も十分賢いよ」
えへへ、と笑みをする香帆。なんて仲睦まじいんだろう。
「志桜里ちゃん」
「は、はい」
「しばらくここにいてもいいけど、その代わり親御さんに連絡させてもらうわよ」
「どうして……」
「さすがに未成年を勝手に住まわせていると、未成年誘致という罪に当たるからね。さすがにそれは出来ないのよ」
それでハッと気づく。それは、まだ自分が大人ではなく子供であること。そのことを自覚出来ていなかったことを。自分の浅はかさに恥ずかしくなった。
「お願いします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます