第16話 許嫁

 食卓。風景、いつも通り居心地が悪いはずなのに、巧がいるおかげで少しは自分がこの家にいてもいいんだ、なんて思った。

 でもどうしてか巧君の食事だけ豪勢だった。まあどうして? なんて思うがその反面、納得している自分もいる。

 自分よりも、居候のほうが歓迎したい人の心、って言うのかな。

 それは普通のことだと思うから、特段気にはしないけど、でもなんでだろう。胸が締め付けられる。そんな自分に気にしたら負けだよ、と戒める。

 ここで自分の食事を述べておくと生卵におしんこ、味噌汁に白米というのが志桜里の食事。それの倍以上、巧には品数がある。

 もう余計なこと考えてないでさっさと生卵を白米に醤油と同じくぶっかけて、それを掻き込む。

 そしてぼそっと「ご馳走様」と言って席から立ち上がりシンクに、皿をのせて自室へと向かう。

 その時だった。巧の発言に驚かされたのは。


「それで、どうして志桜里はいじめられているんですか」


「分からないのよ」と母。その声はどこかしんみりとしていた。


「いじめられるのは、本人に気概がないからだ。だから舐められる」と父の厳しい声が響く。


「古典的っすよ、その考え」


「巧君にそう言われたくはないな。あの子を一緒に許嫁にさせようとしているのに」


「……それは言わない約束じゃないですか」


 志桜里は耐えかねてリビングに飛び出した。


「どういうこと? 許嫁って?」


「聞いていたの……」


 母の表情は暗い。


「聞かれていたんじゃあ仕方ない。詳しく説明してやる。父さんの経営している会社は斜陽企業でな。それに上場企業の社長の巧君のお父様に融資をしてもらう条件に、お前を巧君の許嫁にしたんだ。分かってくれるよな」


「分かってくれるよな……ってそんな勝手な」


「勝手な行動してるのはどっちだ? 学校を休んでディズニーに行ったりな。まあ、お前を幼少期から北海道に行かしていたのは向こうの環境に慣らせておくためだった、というわけだ」


 そんなの、そんなの勝手じゃないか。

 巧は俯いていて何も言葉を発そうとしない。

 それが腹が立って仕方ない。

 

 あなたは何とも思わないの?

 好きでもない人と結婚させられるんだよ。

 こんなの政略結婚と同じじゃない。


「もう知らない……こんな家、出ていくから」


「ちょっと待て。また勝手なことをするのか」


 志桜里は背中を父に向けて言い放った。「そんなの、私の勝手でしょ」


「ちょっと待って!」


 巧は去っていく志桜里に向けて言ったが、志桜里は聞く耳を持たなかった。

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