第8話 東京ディズニーランド
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千葉のディズニーランドの門の前で、志桜里はスマホのメッセージ機能で香帆とやり取りをしていた。
「ごめん……あと十分で着くから」
まったく、時間にルーズなんだから。
そんなこと考えていると声をかけられた。それに少し眉が引きつる。
その声の主は
「あれ~志桜里じゃん。今日は家族と一緒に来たの? それともぼっち? だとしたら可哀そうだね。一緒に回ってあげようか」
「いや……それは」
麗美に脛を蹴られた。痛みで歯がみする。
「なに調子乗ってんの? そこはOKでしょう。まったく、ほら行くよ」
右腕を引っ張られて、入門する。
「うーん、そうだな。どこがいいかな」
痛覚が腕の神経から走ってくる。痛い。痛い。痛い。
周囲を見ると、志桜里たちの動向に注目されていた。「あれ、いじめじゃね?」なんて言う男性客もいた。
そしたら逆の手も引っ張られた。何だろうと思って後ろを見ると香帆が立っていた。
「何やってるのかな」
笑みを見せながら香帆が言った。それに麗美が嫌悪感を滲ませている。
「あんた誰?」
と言って志桜里の腕を離した。
「君たち、弱い者いじめはよくないよ」
そうすると麗美は眉根を吊り上げた。
「あんた、馬鹿じゃないの。ただ私たちは仲良くしてあげてるだけじゃない。私たちは親友だよね、ねえ、志桜里」
「う、うん」そう言うしかなかった。
じゃないとまた攻撃されるから。
また、いじめられるから。
「嘘つき」ボソッと香帆が言った。それに、「あ?」と半ば怒鳴り声でけん制する麗美。
「というか、私、志桜里ちゃんと約束しているんだよね。ディズニー一緒に回ろって」
すると麗美は吹き出した。そして小声で「こんな夢も希望もない奴がディズニーとかふざけてるだろって」と言った。
確かに、その通りかもしれない。自分みたいな陰気臭い女は、ミッキーもお手上げだろう。幸せな気持ちになんてさせられない。
「別に、そんなことどうでもよくない。だからもう一度言うね。私は志桜里ちゃんと約束したの。だから~志桜里ちゃんを私に預けてくれない?」
「はいはい。何度も言わなくてもいいって」
そう言って志桜里を投げ飛ばす麗美。そんな志桜里を香帆が抱き寄せる。
「じゃあね~」
大笑いしながら麗美たちが去っていった。
「ごめんね。悪い気分させちゃったね。香帆さん」
香帆は首を振って、でもにこりと笑う。「大丈夫だよ。私のことは気にしないで。そんなことより怪我はない?」
志桜里は頷く。そしたら香帆は志桜里の頭を撫でる。
「可愛いあなたを苦しめる人は私だけでいいから。嫌な人間がいたら言ってね。その人」
殺してあげるから——
全身に鳥肌が駆け巡る。そして香帆はすうぅうとどうしてか志桜里が流した涙をぬぐってくれた。
多分、そのことがきっかけだったのかもしれない。
自分が香帆のことを気になるようになったのは。
夢の国で、夢うつつになっただけかもしれないけど、それでも、確信を持って言える。
自分は香帆のことが好きだ。
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