第7話 やりたいこと


 その日、志桜里は学校を休んだ。

 香帆との待ち合わせの公園で、自販機でスポーツ飲料を飲んでいた。

 まだかな……


 ブランコに座り、キィイと何とはなしに漕ぐ。


 すると、雑木林を抜けて香帆がこちらに手を振ってきた。

「やっほー」 


 やっほーってなんだよ、と憂鬱な志桜里は思った。だがしかし、彼女の容姿を見て、そんな悪口を思ったことを後悔した。


 香帆は黒ニットのノースリーブに、クリーム色のロングスカートだったのだ。それに緩く左にまとめた髪。


 かわいい、なんて思ってしまった。彼女が志桜里の隣に来るとほんのりイチゴの香りがした。あっ、香水だ、なんて感じて、自分と違ってすごく女の子なんだな、とも思った。


「やりたいこと、まとめてきてくれた?」


 志桜里は頷いて、A4ノートを渡した。


「ふむふむ、関西で十円パンを食べる。ディズニーランドに制服で遊びたい。推し活をしたい。あれ、まだ三つだよ?」


「まだ決めきれてないんです。だって、もう死ぬのに、この世に未練なんかないから」


「そっかー」と香帆は顎もとに手をやって考えるしぐさをした。


「香帆さんは、やりたことないんですか?」


「そうだね。海外旅行とか、高級なお寿司とか食べたいかな」


「欲深いですね」

 志桜里は思わず笑みをこぼしてしまった。


「だって、もうすぐ人を殺すんですもん。刑務所では味わえないことをやっておかないとね」


 そして、彼女と合同でやりたいことを十個にまとめた。

 これからそれををやっていくんだけど、ひとつ心配事があった。それは彼女が本当に自分を殺してくれのかどうかだ。

 

 10


 土曜日。志桜里は制服に着替えていた。きゅっと首元にリボンをつける。


 これでよし、と思い階下に向かう。スニーカーを履いて自転車のサドルに跨った。


 一生懸命にペダルを漕いで、駅へと行った。駐輪場に自転車を停めて、駅舎へと入った。


 ミンミンゼミが鳴いている。最近は季節の移り変わりが早いような気がする。春の桜が散ったと思えば、あっという間に紅葉に色づいて、そしてそれも散れば冬の淋しさがやってくる。


 ミンミンゼミの一生は、儚くて地上に出れば一週間と持たない。

 それは、寿命が決まっていることだけ言えば志桜里も、セミと同類かもしれない。

 思慮深くそんなことを考えていると電車がやって来た。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る