第6話 肉じゃがとスクールカウンセラー

 7


 夜の七時。志桜里はリビングで昨日の残りの肉じゃがを食べていた。ほろほろとしたじゃがいもに色味豊かなニンジン。それらを咀嚼しながらテレビを見ていた。


「スクールカウンセラーの人材不足が、いま話題になっております」


 箸でじゃがいもを持ち上げてみる。最初は原型を保っていたけど、どんどん中に浸み込んだ出汁によってほろほろと崩れていく。


 なんか、その光景に親近感がわいた。自分は人材不足だというスクールカウンセラーなんていらない。だって、志桜里はいつか死ぬことを選ぶ。もう三十万で自分を殺してくれる人もいる。スクールカウンセラーの人は傷口を撫でるだけ。そこに絆創膏を貼ったり、治るまでのあいだ支えてくれたりはしない。なぜなら「人材不足」だから。一人で何十人も案件を抱えればそうなるのが必至だ。だからこうして、サポートを受けきれなかった子が肉じゃがのじゃがいものように崩れていく。


 弱者は排斥されていくシステムなの。この世は。


 8


 夜の九時。自室に戻るとスマホに不在着信があった。

 それを見て、ああ香帆と連絡先を交換したんだった、と思った。

 スマホを操作して耳に当てる。「はい、もしもし」


「あ、志桜里ちゃん? やっとつながった」


 馴れ馴れしいな、なんて思いつつ、椅子に座って何とはなしに指でとんとんと机で音を刻む。


「実はね、志桜里ちゃんに『やりたいこと』を十個、まとめてほしいの」


「やりたいこと……十個ですか?」


「そう。例えば韓国に行ってカンジャンケジャンやサムゲタンを食べたいでもいいし、プリクラ撮ってギャルになるでもいいし」


「難易度の高低差が激しいな」志桜里は思わず吹き出してしまった。


「考えてくれる?」


「いいですよ。でも、私をちゃんと殺してくれるなら」


 少しの間があった。そのことが少し怖かった。


「分かってるって。じゃあ、また明日会おう」



 そうして、通話は切れた。

 

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