龍神と狡い人

第18話

夕陽を浴びながら空を翔る龍神。


「清士郎~もういいか~?」

「ええ、何か言いたげですね」

「オレのセリフが無かった」

「そうでしたね、申し訳ありません」

「さっきから演出とかセリフとか何ですそれ? ムードがありません」


凛夏が拗ねている。



清士郎は髪の毛を一つに結いはじめた。


「姫君が龍神の迎えで天に帰るという筋書です」

「お芝居の演目ってことです?」

「はい。実際は家に帰るだけですからね」

「清士郎の家に帰れるのですね」

「あの男か僕か、凛夏は本当に男運がないですね。僕はあの男よりだいぶマシですが、それなりに悪いこともしていますよ?」

「えっ? どんなことです?」

「それは教えられません。世の中には知らないほうが良いこともあるのです」

「なにそれ!! 気になる」



凛夏は後ろにいる清士郎のほうに向く。

ふふふ、と清士郎は笑って誤魔化す。

凛夏は横座りになり清士郎に抱きつく。


「危ないですよ」

「私はたくましく生きる清士郎が良いです。私に無いものをたくさん持っているし、胃袋を掴まれましたし」

「そうですか、そう見えますか。なるほど胃袋を……うん。どんなに狡い手を使っても僕は凛夏を逃がしませんよ、いいですか?」

「はい、のぞむところです」


凛夏と清士郎が抱き合う。



「オレの事忘れてイチャイチャしてるだろ? いいなぁ、珠子ちゃーーん!」


龍神は思い出してうねうねしだした。


「ロン様、危ないですよ!」

「清士郎、こわーい!」

「あざとい姫ですね!」

「狡いのはどっちもどっちだろ」


すっかり日が落ちて夜空になっていた。

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