薬と味噌汁

第17話

水の上に社がある。池には睡蓮が咲いており、とても幻想的で綺麗な場所だが、凛夏はそれを楽しむ余裕はなかった。

婚礼の衣装を着せられ、少しの薬を盛られて意識が朦朧とする。


「やっとこの日が来たな。凛夏、一生可愛がってやるからな」


ふらつく凛夏を京斗が支えて、耳元で囁いた。

そのセリフと薬のせいか何だか気持ちが悪い。

宴会の上座に座らされた。


「今日はごゆるりとお楽しみください――」


意識の遠くに京斗が挨拶をしているのが聞こえる。

用意された御膳をみて微かに思う。


(ああ、清士郎のお味噌汁飲みたいな……)


ぼろぼろ涙が出てくる。


「そんなに俺と結婚するのが嬉しいのか? ははっ!」


京斗が冗談で誤魔化す。


「今晩楽しみだな」


ボソッっと願望を口に出す。




景色が見えるように池の方向だけ全開してある。

池から水柱が立った。


「何だ? まさか?!」


青い大きな龍が現れた。人間にもはっきりと見える。威圧するように咆哮し、強風が吹いた。

風が止むといつの間にか若い男性が立っていた。長い銀色の髪に青い瞳、白い装束を着ている。

青い龍が首元にすり寄ると撫でた。

皆が見とれていると、微笑んだ。


「龍神様だ」


誰かがそう言った。

凛夏が立ちあがり龍の方向に進む。


「凛夏、待て!」


京斗は凛夏の手を掴んで刃物を取り出した。


「取られるくらいならこの場で殺す!」


刃物を持った右手にクナイが刺さる。

白い着物を来た杜が現れる。


「くそっ、丹か?! いつの間に」


正確には杜だ。丹は薙刀を持って京斗の後ろに立っている。


「あの龍どもに矢を放て!」


「祟られたくなければ、龍神に手を出すな!」


京斗が叫ぶのをかき消すように丹が言い放つ。


「今、首をはねたほうがいいのでは?」

「そうだな」


丹が薙刀を振りかざした。

寸止めされたが京斗は恐怖で気絶した。

杜は帝国の軍の大将に京斗の悪事をまとめた書を渡した。


「これは?!」


大将は真っ青になった。




凛夏がやっとの思いで龍神の近くまで行こうとする。足がもつれてよろけたのを清士郎が抱き寄せる。


「意識が混濁するような薬を盛られたのですね」


そう言って気付け薬を凛夏の口に放り込んだ。とてつもなく苦い。



「清士郎、私を連れていってください」

「ええ、帰りましょうか」

「ロン様の背に乗るのですか?」

「そうです、そういう演出です」


凛夏と清士郎が龍神に乗ると空へ昇りはじめた。ゆっくりと雲まで届きそうな高さまで上がる。

杜と丹が龍神に向かって跪く。


「凛夏姫は龍神様の迎えで天に帰られた!」


そう言って唖然とする人々に印象付けた。

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