夢と白旗
第13話
「清士郎~いっぱい大きくしてあげますからね」
「ちょ、姫君はしたないです」
「清士郎、よしよし~」
「ちょっと!」
夢から覚めた清士郎がハッとする。
隣の部屋から龍神と凛夏の会話が聞こえてくる。
「朝っぱらからじゃれ合ってたのですね、変な夢を見ました……」
清士郎の独り言が虚しく消えた。
洗濯物を干しはじめた清士郎に凛夏がくっついている。
山の裾から無数の足音が聞こえてくる。
「ん? 何でしょう?」
放たれた朱色の矢が幾重も見える。
「!!」
凛夏を抱えて縁側から家の中に隠れる。
矢が何本か家の中にも入り込んでいる。
「相手は妖怪の類と聞く。油断はするな。凛夏姫を取り返せ!」
軍勢の大きな声援が聞こえる。
「帝国の軍ですね。どうやら姫君を迎えに来たようです」
縁側の戸を急いで閉めながら冷静に言う。
「どうするよ?」
「僕たちには戦う理由がないですからね。ロン様これを――」
「ダメです。帰りたくありません」
「だってよ、清士郎」
「姫君、帰るべきです」
「だったら最後に抱いてください」
「それは出来ません」
清士郎は首を横に振り凛夏から離れようとした。
凛夏は清士郎にしがみついた。
屋根にたくさんの矢が突き刺さる音がした。
「じゃあ、最後の思い出作りに口づけして終われば?」
「それいいですね!」
「はぁー、ロン様余計なことを」
凛夏が目をつむり、清士郎は腹をくくった。
清士郎が口づけすると凛夏の通力が流れ込んでくるのを感じた。
もっと欲しいと同時に頭が真っ白になった。
次に龍神が清士郎の名を呼ぶのに気づいた時には凛夏を押し倒した形になっていた。
「清士郎、やりすぎだ。凛夏ちゃんが力を吸われ過ぎて伸びてしまった」
「……すみません」
清士郎は羞恥心で耳まで真っ赤になった。
白旗が浮いて屋根の上ではためいている。軍勢がざわざわした。
「攻撃を一時停止しろ!」
最初に丹、その後ろに杜が凛夏を抱えて家の玄関から出てきた。
凛夏は真っ赤になりながら清士郎の名を呼んでいるが全然力が入らない様子だ。
大将が出てきて凛夏を預かる。
「杜と丹、お前らは姫の逃亡幇助の罪で解雇だ。どこへでも行け! それとも首をはねられたいか?」
「杜と丹は家で預かります」
清士郎の姿を見ると軍勢がざわざわしだした。
「二度と姫に近づくなよ」
そう言って凛夏を連れていった。
その場には無数の矢だけが残された。
凛夏が城に戻ってから少しして杜と丹もいなくなった。やはりあの二人は謎が多い。「ありがとうございました」とだけ書かれた杜の置き手紙を読みながらそう思う。
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