寝不足とイヌ
第11話
今日の午前中は家で凛夏の世話をやき、午後は町に出る。仙塚堂へ納品がある。
凛夏の世話と通力を教えるという余計な仕事が増えたのでこのところ寝不足気味だ。
あくびを噛み殺す。
「お疲れのようだね」
「ええ、最近珍しい生き物を飼いはじめてしまって世話が大変なんです」
「どんな生き物だい?」
「うーん、あま色の毛で翠の目をした獣ですね」
「ネコじゃないのかい?」
「どちらかというとイヌですかね。なついてくれてるのは良いですが、わがままで、もて余してます」
「確かに翠の目をしたイヌは珍しいね。可愛いかい?」
「はい、可愛くて面白いです」
清士郎が思い出して笑っている。相当、愛でているのだろう。こんな優しい表情はあまり見ない。
「ほー、それはそれは良いことで」
たぶん、それはイヌではないことは察しがついた。
売り上げを渡しながら、店の主人はちょっとクスッとしてしまう。
清士郎は仙塚堂をあとにした。
「清士郎、凛夏ちゃんはイヌなのか?」
「クマのほうが良かったでしょうかね。色的に」
「いや、まあそうだよな、ひとつ屋根のしたに男と女はいろいろ邪推されるわな」
「それに城から迎えが来たら、ずっと置いとくこともできないでしょうしね」
「そうか……一時の戯れか、悲しいな」
この国の姫に生まれてきたなら本人の意思とは関係なく、どこか身分のある所に嫁がされるのだろう。
だが、身分が高い所イコール大事にされるとは限らない。特別な能力があれば重宝されるかもしれないし、通力を教えるのは清士郎のためでもあるが彼女が一人でも生きて行けるためでもある。
名前を呼ばれて清士郎は町の女性達に手を振った。
頭に乗っていた龍神は尻尾を清士郎の首に巻きつけた。
家に帰ると凛夏が飛びついてきた。
「清士郎、もう帰ってこないかと思った」
「僕の家ですよ、ここ。お忘れですか?」
「杜に言われて墨をすっていたのですよ」
出掛けるときに凛夏が墨をする練習をするように杜に頼んでおいた。
「そしたら全然黒くなんないの!」
「またスケベイな事考えてたのか?」
「違います!」
「ん? どんな感じです?」
丹以外の全員で墨を覗きこむ。
ラメ入りの濃紺の墨になっていた。
「ほー、綺麗ですね。このきらきらは神通力ですかね」
「そうだろうな」
「終始、自分ですったのですよ。私は自分の神通力は見えないから見れて嬉しいです!」
「ふむ、金粉が入った墨みたいで高級感ありますね」
これで文字を書いたらさぞ綺麗だろうと思う。
雲母を入れれば同じようなものはできるだろうか考えていた。
「黒くはないけど使えますよね?」
「ええ、どんな作用が出るか楽しみですね」
自分とは違う個性の通力を見るのは面白かった。
清士郎はニッコリ微笑んだ。
「清士郎~!」
凛夏が抱きつこうとしてきたので龍神を押しつけた。
「僕は晩ごはんの準備をするので二人で遊んでいてください」
「凛夏ちゃ~ん、なでなでして~!」
「もう、しょうがないですね、特別ですよ?」
清士郎は、また龍神が変な声を出すのを背中に感じなから、晩ごはんのおかずを考えていた。
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