通力とスケベイ
第10話
「今度は御札の書き方をやってみましょう」
「はい」
「通力を込めながら墨をするのですが、姫君は通力を垂れ流しているようなので墨をするだけで良いです」
「うん? はい……」
黒い石のような塊を硯にこすりながら溶かす。
凛夏の場合はいつも杜がやってくれているので自分でしたことがない、見よう見まねでやってみる。
「もう少し物理的に力を入れて、こうです」
「はい」
後ろから手が添えられた。清士郎が近い。
「墨が薄いと良い御札ができません」
「け、けっこう疲れますね~」
凛夏はそう言いながらドキドキしている。
「なんかスケベイな教え方だな~墨するだけだぞ」
「それが出来ないのが姫君なのです、ロン様」
「甘いな」
「教え方がですか?」
「いや、何でもない。思い出すなぁ珠子ちゃん……」
清士郎は名前が聞きとれなかったが特に気にしない。
龍神は昔のモジキュン時代を思い出しているようだった。こういうことがよくあるのだ。
清士郎は続けて墨をすっている。凛夏は疲れたのか清士郎に背中を預ける。
「修行中です、ちゃんとやってください」
「清士郎、好き!」
「はあ、それで誤魔化してませんか?」
「誤魔化してません!」
「はい、姫君の分はできました」
清士郎が離れていった、背中が寂しい。
続けて自分の分をすっている。
凛夏はその横顔をにんまりしながら見ていた。
「では、今の姫君は御札に触っただけで発動するので上下に文鎮を置きましょう。見本はこれです」
簡易版の水の御札だけど、さっきのより細かい模様がない。これなら模写できそうだ。
しばらく熱心に書いていた。清士郎を盗み見たけど違う御札を書いていた。
「できました!」
「繊細な筆使いですね。あと、九枚お願いします」
「えっ? あと九枚?」
「はい、後で外に出て試してみましょう」
ニッコリ微笑んだ清士郎に対し、凛夏は集中力の配分を間違えたようだ。
結局、七枚目ですべての集中力が切れた。今度は家から少し離れた広場に行って試してみる。
凛夏の御札からは発色の良い色水が出た。ピンク色、ハワイアンブルー、メロンソーダ色などが出てきた。匂いからおそらくこの色水は甘い。
「すごい色ですね、何を考えながら書いてました?」
「それは……清士郎とデートに行って、うふふふふふ」
凛夏はてへっと言わんばかりに笑って誤魔化した。
「おおいに不純物が混じってるな」
「妄想しながら器用ですね。面白いです。用途不明ですが良いでしょう」
これを清士郎が応用すれば飲み物とか染め物が良いだろうか、頭の隅で数字がカチカチ動いた。
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