御札と虹

第9話

凛夏に家事を手伝わそうと思っていたが、さすがお姫様だ、家事センスゼロだった。

先に御札の使い方を教えることにした。


「これは水に作用する御札です。わかりやすく中心に水と書いてます」

「はい」

「まずは御札に自分の力を込める」


清士郎が御札を持って集中すると文字が淡く光りだした。

御札から、しゅるりと円を描くように水が出てきた。


「水芸ですね!」


拍手して凛夏が喜んだ。



「では、やってみます?」

「はい」


清士郎が御札を渡そうと差し出し、凛夏が触れた瞬間に水が上に噴き出した。雨のように散り、虹がかかる。


「力は強いですね。制御できればもっと良いです」

「制御ですね」

「形を想像して水を操るようなイメージです」


今度はさっきの御札の三分の一くらいの御札を出した。


「姫君は力が強いのでこちらの簡易版で良いでしょう。見ててください」


清士郎が小さい御札に力を込めると水が出てきて水の球ができた。

ふよふよ浮いている。

文字が光の粒になって端から消えている。全て消えると水の球は地面に落ちた。



「面白いです」

「ではやってみてください」


凛夏が簡易版の御札を持つと水がどんどん出てくる。


「出しすぎですね」

「ど、どうすれば?!」


頭上に大きな水の球が浮いている、池の水くらいはあるだろうか。

文字がじりじり消えていく。



「まずい、落ちてくる!」

「えっ?!」


清士郎は懐から別の御札を出して防護壁を作る、透明な壁にぶつかり音を立てて水が流れていった。

庭がびしょびしょになった。


「すみません」

「いえ、家事よりは良いです」


清士郎はニッコリ微笑んだ。



「普通はっていうか僕の場合は最初ちょろちょろとしか出なくて、いかに力を込めるかってところでしたが、姫君はいかに力を制御するかが問題でしょう」

「はい……」


凛夏は首を傾げながら頷いた。あまり分かっていないようだ。

清士郎は自分よりも通力が強い相手に出会った事がないので心の中で敗北感を覚えた。

凛夏は通力を制御できずに常に垂れ流しているようだった。

普通は力を使いすぎれば疲労して倒れる。



たぶん薬や護符を作るのに適性があるだろう、と願いたい。

清士郎の頭の中で値踏みをつけながら数字がカチカチ動いた。

凛夏は値段がつけられない価値がある。

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