悲鳴とおにぎり
第7話
朝方、清士郎は違和感で目を覚ます。
うなじに寝息がかかる。反射的に起き上がり息をする方向を見ると凛夏が同じ布団で寝ていた。
「わーーっ!」と清士郎の悲鳴が屋敷に響いた。
「夜這いをするとは、なんてはしたない姫だ!」
「そんなに恥ずかしがらなくても……」
「貴女の貞操観念を疑います」
「私たちは夫婦になるのですからよくないですか?」
「夫婦になりませんし、よくないです」
「えっ? 持参金受け取りながらそんなことを言うのですか?」
「あれはこの家に住むための挨拶料と当面の生活費です。貴女は私の弟子です」
「弟子なのですか?」
「はい。僕の仕事の補助をしながら、いろいろ覚えてもらいます」
凛夏はしょんぼりしながら部屋を出ていった。
「内鍵が必要ですね」
「清士郎より財があって、神通力もあるから嫁にしてもいんじゃないか?」
「六オン程度では身を捧げられません。ロン様が言うから、住むのを許しただけですよ」
うーん、と龍神は考えている。
「じゃっ、オレは凛夏ちゃんを励ましに行ってくるな」
「変なこと吹き込まないでくださいよ」
清士郎は朝ごはんを作るために着替えはじめた。
「凛夏ちゃーーん!」
「ロン様、私怒られてしまいました」
龍神は凛夏に抱きついた。
凛夏に撫でられる度に幸せが溢れてくる。うっとりする。
「清士郎のどこが良かったんだ?」
「そうですね。やはり輝いて見えるし、私と同じ力がありますし、あとは容姿が良い」
「結局、顔か?」
「そうかもです。清士郎が帰ったあとも忘れられなかったのです」
「へー、恋だな」
龍神は背中を撫でられるとビクッとする。
「ロン様少し大きくなりました?」
「ああ、人間の信仰心で、ある程度は力が戻るんだ。オレが見える凛夏ちゃんも来たしな」
「信じる心って大事なのですね」
「そそっ、少しずつ信頼を得られるように凛夏ちゃんも頑張れよ」
「はい、頑張ります」
凛夏と龍神は微笑み合う。
襖を開けて清士郎が話しかけてきた。
「ロン様、朝ごはんができました。姫君達の分も用意したのでどうぞ」
「はーい」
今日は相手の好みがわからなかったのでいろんな具のおにぎりとみそ汁にした。
「杜と丹は何がお好みですか?」
「ありがとうございます。普段は携帯食ばかりなので助かります」
「俺たちに好き嫌いはない。そういう風に育てられてきた」
杜は女性で丹は男性という情報しか得られていなかったが、やっぱりわからなかった。
「おにぎり~おにぎり~」
龍神が一番喜んでいる。
海苔を巻いた三角型に、わかりやすいように上にも中の具を置いたおにぎりだ。
「いただきます」
凛夏が小さい口で食べはじめた。
静かな部屋に小鳥のさえずりだけが響く。
清士郎はまだ台所をうろうろしている。
「清士郎は食べないのですか?」
「僕は後で良いです。姫君のような方々のお口には合わないでしょう」
「いえ、とても美味しいです」
まだ温かくご飯もふっくらしている。
具も梅干し、おかか、昆布の甘煮、魚のほぐし身があってどれも美味しい。
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